風邪ひいてるの
今日のあいつはどこか可笑しい。
こんなこと言うと語弊が生じるかもしれないが、確かに可笑しいのだ。


「うっわ!これちょー甘い!!」
「え?俺のは酸っぱいんだけど…」
「僕のはしょっぱいです。」
「ちょっと瑞希ー?ドリンクが――」


みんなの視線がタイマーのセットをしてるマネージャーに集まる。
だがみんなはマネージャー本人ではなく、そのタイマーに目が行った。


「おい白井!!タイマーくるってる!」
「へっ?あああ!!」


どうやら時間をセットするためにボタンを押したのだけど、その指はずっとボタンの上にあったようで、1から0をエンドレスに表示していた様子。
いつもテキパキと動いて空いた時間で俺たちの練習を見てるのに、今日はまだ三分の一も仕事が終わってないようだった。


「俺今日、教室移動してる白井先輩に会ったんですけど…」





「白井先輩、次生物なんですか?」
「んー?次は音楽だよ?」
「え、だって教科書…」
「あれ!まっ間違えちゃった!!」





「ってことがあったんですよ。」
「生物と音楽間違えるってどういうことだよ…」
「なんかフラフラしてるよねー。水戸部もそう思うでしょー?」
「(コクコク)」
「はあ…自分の不調には気づかないのねー。」


呆れたようにそう言ったカントクは俺を連れて白井のとこに向かった。
恐らく、帰らせるんだろう。


「瑞希、今日はもう上がっていいわよ。」
「え?まだ練習中だよ?」
「そーだけど、お前体調悪いだろ」
「そうかな…」
「ドリンク失敗してタイマー狂わせてフラフラしてて、こっちが心配で練習どころじゃないの!大人しく日向君に送られときなさい!」
「ええ?!俺が?!!」
「見送り次第戻って来てね。んじゃよろしく!」


えー、とだれてるマネをとりあえず更衣室に突っ込んで俺も上着を羽織るのに部室へ駆け込んだ。
あのカントクは本当に何を考えてるのかわからん!


「ごめんね日向」
「んなこたぁーいいから、早く治せよ。」
「…うん。」


なんだかんだで怠かったのか、帰るとなった途端に元気がなくなった白井。
赤くなっている頬を横目で見て、思わず目を逸らしてしまった。
二人で歩くなんてめったにないから初めて気づいたけど、こいつ意外と小せぇ。


「ほんとはちょっと辛かったんだ」
「はあ?んじゃ無理して学校来たってことか?」
「うん。だって、休んだら家で一人なんだもん」


けど今は日向が送ってくれるからいいや。

熱のせいで浮かれてるのか、弱ってるせいなのか、こいつはなんて爆弾を…。
道路に飛び出しそうで危ないと口実をつけてその手を握ったけど、そのあとは一度も顔を見れなかった。






逆さに数えるアイラブユウ

by花畑心中
20121108


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