昨日、退院してから初めて職場に行った。私は雑誌の編集者をやっているらしく、担当はスポーツ。
そしてそこで出会ったのは、上司であり高校時代の先輩でもある伊月先輩という人だった。


「伊藤はとにかくスポーツが大好きで、俺の就職先聞いて一番に食いついてきたよ。」


伊月先輩の話す私は、今まで聞いてきた自分とはまた違う自分だった。
特集を組むためにあらゆる場所に出向き、企画に参加させてもらえるように徹夜したり。因みに前回任された企画は高校バスケの強豪校インタビューだった。インターハイ直前の大事な企画だったそうだ。私はインターハイが分からず、一から説明してもらった。


「これが7月に出版された月バス。去年の優勝校の海常特集が伊藤が担当した部分な」
「海常高校…あ、神奈川なんですか」
「ここの監督兼顧問が女の人苦手で、インタビューに苦労してたよ」


ペラペラと雑誌をめくる。自分がメインの企画を担当していたのかと驚いたけど、更に驚いたのはそこに自分の母校が載っていたこと。それを伊月先輩に言うと嬉しそうに最近の高校バスケ事情を語ってくれた。私の周りはバスケ好きばっかりだ。


「そういえば、今日黄瀬がうちの会社に来てるんだよ。」
「え!彼ってモデルさんじゃないんですか?」
「アイドル雑誌の撮影で、うちはそっちもやってるから」


こっそり覗いてるくらいなら平気だと思うから行こうか。
先輩に連れられて、私はスタジオへと向かった。







「おはよう、気分はどう?」
「良くなったよ。朝ご飯食べるね」


昨日は伊月先輩に家まで送ってもらってお風呂だけ入って寝た。
黄瀬君のところへ行って、あわよくば話を聞かせてもらおうと思ってたのに、彼の顔を見てると段々と頭に痛みが走ってきて。なんでこんなことになったのかは分からないけど、とにかく昨日は勿体ないことをしたなと思った。
どの写真を見ても近くに居る黄瀬君なら、もっと何か私が思い出せるきっかけを知ってるかもしれないのに。


「そういえば…」


朝食を終えて部屋に戻り、小学校から変わらない勉強机の椅子に座る。そこでふと思い出したのは、昨日黄瀬君の姿を見たときに頭を過ぎったもの。
青のジャージを着た男の子、遊園地の観覧車、小さな公園。この三つが頭を過ぎったのだ。何か思い出と関係あるかもしれないと思って私はあるだけのアルバムをすべて開いた。きっとそこから、何かにつながるはず。


「待った、青のジャージって確か昨日の…」


伊月先輩がプレゼントと言ってくれた月バス。私が担当したページを開けば、そこは青のジャージでいっぱいだった。でも、私が通っていたのは誠凛であって…


「キセキの世代、黄瀬涼太の母校…?」


端のほうの記事を読み上げたとき、後ろのほうで何かが落ちる音がした。まだ見てないアルバムが、バランスを崩して落ちたようだ。
たまたま開かれたページを見るとそこには


「黄、瀬君、だ…」


頭を過ぎったのと全く同じ観覧車の前で、手をつないで、写真に写る私と、黄瀬君が居た。







いつか君を愛する日が来たら
(何かあったんスか?)
(あー、なんか社員の子が撮影見に来てたんだけど、頭痛くなったみたいで10分もしないで帰っちゃったのよ)
(へぇー。あ、それは?)
(多分その子の忘れもの。中は…やだ、これ彼氏からのプレゼントじゃない?ネックレスが入ってる。)
(?!…それ、オレが預かってもいいっスか?)


20121118