「ええっ、二人って結婚してるの?」
「はい。半年前に式を挙げました。」
「由実ちゃんも来てくれたんだよ」


秋晴れという言葉がぴったりなほどよく晴れた日曜日。
私は黒子君と桃井さんの家を訪ねた。
お母さんに地図を渡されたときに少し疑問に思ったけどさ、まさか結婚してるとは。


「ほら、このブーケ持ってるの由実ちゃん!」
「私ブーケ取っちゃったんだ…」
「さつきさんがなぜか一番喜んでましたけどね」


懐かしいと言いながらアルバムをめくる二人。半年前のことなのに懐かしいだなんて、ちょっと変な感じ。


「スピーチ、青峰君がしたの?」
「僕の友人であり、さつきさんの幼馴染ですから。」
「大ちゃん何度か泣きそうになってたよね」
「柄じゃない…よね?」
「最初は断られましたよ。」
「でも一度きりだからって頼み込んだの!」


私の中で少しずつ出来てく彼らの関係。同じ学校に通っていたのは中学の三年間だけなのに、十年以上経った今でも仲がいいのは、バスケという繋がりがあったからなのかな。


「そーいえば、きーちゃんには会った?」
「きーちゃん?」
「黄瀬涼太。この黄色の子。」


再び写真を見ると、そこには例の彼が居た。また私の横に立ってる。


「彼の仕事が忙しくてまだ会えてないんだ。」
「今忙しいみたいですね。」
「そんなに人気なの?」
「12月に纏まった休みが欲しくて今に詰めてるみたいですよ」
「大変なんだね」
「本人は楽しいみたいだけどねー!中学の時からモデルだったんだよ?」
「?、バスケ部だよね?」
「彼は両方こなしていたんです。」


この人そんなに器用なんだ。…不器用そうに見えるのに。だなんて呟いたら黒子君が笑いだした。


「人間関係に関してはかなり不器用だよきーちゃん」
「言葉で伝えるのが下手ですからね。」


二人は人をよく見てる。一見対局の位置に居るように見えるのに、実はすごく近くに居て。
二人の傍は、なんだか暖かい。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、」
「なーに?」
「私が記憶喪失になったことで、何か大変になったこととかって、ない?」
「え?」
「仕事はね、自分の企画が終わった後だったから平気だったらしいの。だから、他にないかなって」


何気なくこぼした言葉。
黒子君と桃井さんは顔を見合わせた。


「ひとつ、あります。」
「テツくん…」
「貴女が思い出さなくてはならないことがひとつ。正直、僕らのことは忘れたままでも構いません。だからせめて、そのことだけは早く思い出してほしい。」






君はまだあの春で待っている
(黒子君も桃井さんもなんだか泣きそうで、)
(どうしてそんな大事なことも)
(忘れてしまったんだろう。)

20121115