「駅を出て右に曲がった所にあるケーキ屋さん…あった」


入り口がカラフルに彩られたケーキ屋さん。今日訪問する相手はここでパティシエをしてるらしい。
私たちまだ26なのに、すごいなあ。


「あー由実ちんじゃーん」
「こんにちは紫原君。」
「今お菓子持ってくるからその辺座っててくんない?」


話に聞いていた通り、2mの身長に見合わない喋り方。ゆるゆるとしてるからガードが低く感じるのか、喋りやすい。
そんなこと思ってたらイチゴのムースケーキを持った紫原君と他にも一人、男の人がやって来た。


「もしかして、緑間君ですか?」
「そうなのだよ。」
「みどちんさっき来てたから引き留めておいたー」


差し出されたケーキに手をつけつつ、二人に色んな質問をしてみた。
緑間君は今医者なんだって。しかもあたしが入院してた病院の。なんて偶然。


「オレがパティシエになったのは由実ちんのおかげなんだよ。」
「私?」
「お菓子食べたくて学校通ったんだけどさー、作ることばっかでつまんなくて辞めようとしてたわけ。」
「そういえばそんなこともあったな。」
「でもそん時に由実ちんがさ、パティシエになれば?って。お菓子作って自分も食べれて誰かに食べてもらえて、美味しいって言ってもらえるんだよって言ってくれたんだよねー」


だからありがとー。


火神君より大きな手で頭を撫でられる。
自分の一言が、彼の人生を左右していたのか。


「お前はよくできたマネージャーだったのだよ。帝光はマネージャーにも厳しかったが、それに伊藤はついてきたからな。」
「そんなに厳しかったの?」
「ああ。一度仕事が上手く回らず桃井と号泣してることもあった。」


左手の中指で眼鏡を直しながら、右手でコップを取る緑間君。
なんだかその光景に違和感を感じたのだけど、何も言えなかった。だって、この違和感の理由が分からない。


「由実ちんはなんでも一生懸命すぎだと思う〜」
「もう少し力を抜くべきなのだよ。」


最後に一言ずついただいて店を出た。私ってそんなに全力で生きていたのかな。


ふと通りかかった電気屋さんの前で、女の子たちが騒いでるのが目に入る。ちょうどあの子たちぐらいの時に火神君に出会ったのかな、と思ったとき店前に並んでるテレビすべてが黄色に染まり、女の子たちが更に大きな声で叫び始めた。なんだろうと一歩踏み出そうとしたら、


「やあ。久しぶりだね由実」


火神君より真っ赤な髪のオッドアイ、


「赤司君、ですか?」
「そうだ。よかったら少し話をしないかい?」


赤司征十郎君が私の肩を叩いていた。





あの夏のひまわりを忘れない
(本当に何も覚えてないのだな)
(ねー。オレわざとイチゴのムースケーキ選んだのにー)
(…恐らく、俺たちと話すよりもアイツと話した方が記憶を取り戻す可能性は高いのだよ)
(でもそれは、二人にとっても、酷だよね。)

20121107