傾いたままの時計

グランドの整備が終わり迎えた6回の表は、なんだかそれまでに比べて簡単に終わってしまった気がする。
ヒットは二本出たものの、三振も二つ。
攻撃側からしたらなんとも言えない結果だ。

《3番セカンド島崎くん》

さっきのバッターで確信したけど、どうやら桐青はカーブ狙いに絞ってるように見える。
もしそれが本当で、ずっとそうしてくれてたら、西浦の勝ちだ。



「うわおっ!」



島崎さんは見事にカーブを、それも手だけで打った。
阿部くんはこのあと、どう配球する?
なんて考えてた矢先、4番がバスター。
仮にも、去年甲子園に行った埼玉の優勝校だよね?



「…勝つためには手段を選ばず、か。」









*








「いちお口隠せよ。」



タイムをとってマウンドへと走る。
4番にバスターやらせる学校だ。
何やられっかわかんねーからな。



「5番は去年2タコだから、スクイズあっかもね」

「一塁埋めちゃう?」

「6番にはさっきセンター前打たれってから満塁策はヤベェ。」

「おお!モモカンは!?」

「カントクは5番でスクイズくるって。それで、この1点はあげちゃダメなんだって」

「だよな」

「それから…」



一通り喋ってからベンチを見た西広。
それに釣られるように俺達もベンチを見る。



「葉山が、大丈夫。って」



遠くてはっきりと表情は見えねぇけど、恐らく笑ってんじゃなくて怒ってんじゃなくて、不安そうでもなくて、勝利だけを見てる、ピッチャーの顔をしてるんだろう。
あいつの眼差しは、痛いくらいに眩しいんだ。



「っし。守るぞ!」

「「おおっ!!」」







*







5番は見事にスクイズできた。
田島くんの制球はかなりよかったと思うんだけど、決められた。



「おおお!バッター勝負!!」



今のは痛い。
けれど、真ん中のてっぺんに立つ三橋くんは元気だ。
まだまだやれる!



「しのーか!ちょっとスコア見せて!」

「はーい!」

「葉山ー、タオルもらっていいか?」

「うっん!あ、花井くんも!」

「おーサンキュー」



みんな雨でユニホームがびしょびしょ。
雨はどんどん酷くなる一方。



「風邪、ひかないようにね。」



この試合はあと3回。
だけどまだまだ、大会は終わらない。
初戦で黒星つけるわけにはいかない!







―深呼吸を一回、二回―
(閉じた目を開くと)
(笑顔のあの子がそこに居た)



2011 11/18


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