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純粋に、こんな雨の中でも泥だらけになりながら野球をしてるみんなを見て、すごく、羨ましく思えた。
自分の格好を見れば制服なんだからもちろんスカート。
足元だってローファー。
これじゃあ走れないし転がれないし、スライディングなんてできない。
それがやけに目について、嫌になって俯く。
もう何回同じことを繰り返しているんだろう。

みんなは、あたしにできることをすればいいって言った。
けど、じゃあ、それって何があるの?



「どうかした?」

「えっ、あっ」

「なんか苦しそうな顔してたよ?」



西広くんの目を真っ直ぐ見ることができない。



「大、じょぶ、」

「そう?あ、みんな戻ってきた!」



ボーッとしてる間に桐青の攻撃が終わっていた。
野球部のマネージャーとして、ここに居るんだ。
私は心配される側に居ちゃいけない。
自分にそう言い聞かせてタオルの用意を始めた。



「桃ちゃーん、タオル濡らして持ってきて?」

「濡ら、す?」

「三橋が鼻血出してんだ」

「はっ鼻血…!」



5回が終わってグランド整備が始まったとき、西浦のピッチャーはのぼせて鼻血を出していました。



「監督!三橋くん、」

「ん?」

「多分、ねっ熱、上がって、ます」

「そう…雨も降ってるし、風邪が悪化する条件揃ってるもんね」



モモカンは、グランドから目を逸らさない。
その強さが、あたしには足りない。



「だからといって三橋くんを降ろす訳にはいかないわ。桃ちゃん、ベンチでのサポート、お願いできる?」

「っ、はい!」



三橋くんはきっと、どんな状況でも投げ続ける。
三星で三年間マウンドを譲らなかったことが、確たる証拠だ。
だからあたしは、彼がプレイに集中できるよう、全力でサポートしよう。
あたしは、マネージャーだ。



「三橋くん。ボールの感覚とか、変じゃない?」

「う、うん!大丈夫、だっよ!」

「なんか気になるとこでもあったか?」

「いやっ…高瀬さん、がピッチングしてる、っから。」



多分、その感覚はピッチャーにしかわかんない。
特に高瀬さんはそういうのにものすごく敏感そうだ。



「阿部くん、がんばれっ」

「ああ」

「三橋くんは、大丈夫。最後まで、投げれる、よ!」



あたしが保証するから、だから。



「勝とう、ね!」










―現在の自分が立つべき場所―
(やるからには、全力で)
(ウィングスの名に、恥じぬよう)


2011 11/04 星屑


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