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いよいよ西浦の夏が始まった。
「ナッ、ナイキャッチー!」
あたしの声が、ベンチ内に響く。
1回の裏、打者は3番の島崎さんって人が、三橋くんの球をライトに打ち上げた。
しかもスタンドギリギリ。
たった今それを花井くんがキャッチしたところ。
「千代ちゃん!」
「うん!すごいね〜花井くん!あ、みんな戻ってくるよ!」
「のっ飲み物!」
スコアは千代ちゃんに任せた。
あたしの字は丸っこくて見ずらいし、昔からプレーに見入る癖があるから付け忘れちゃうんだよね。
「阿部くんっ飲み物!」
「おー。あ、三橋にさ、飲みもんとタオルやってくんね?」
「タオル、ね。…三橋くん、緊張、してるの?」
「(葉山も気づいたか?)いや、手温っけぇし、ちげぇよ。雨も降ってるし、楽させてぇんだけどな」
じゃあ、あの顔の赤さはなんなのだろう。
「タオルと、飲み物。着替える前に、拭いた方がいい、よ?」
「!あっり、がとっ!」
しばし三橋くんを観察。
ちゃんと身体拭いてるし、飲み物も一気飲み。
(…一気飲み?)
さっきの回、三橋くんは6球で抑えた。
1回を6球で抑えるなんて効率いいし、こっちとしては投手の負担を減らせるからラッキー。
だけど、三橋くんは一気飲みするくらい喉が渇いていたようだ。
「今日、コンディションいい?」
「いい、よ!三振、みっつ!!」
満面の笑みに思わず口許が緩む。
これなら、大丈夫だよね。
「三橋くん、勝とう、ね!」
「おっ、おー!」
*
「たったたた単独、スチール…」
「今…走塁のサインは、出てなかったよね?」
「…と思う…よ」
2回は花井くんから始まって、見事彼はセンターへ放った。
それから、桐青の投手、高瀬さんが崩れてきてるのか、イマイチ断定できなかったけど二回牽制されて、今サインがなかったのに花井くんはモーションに入ると同時にベースを踏み切った。
「桃ちゃん、どう思う?」
「今の、ですか?」
今の一連を見る限り結構危ない盗塁な気がした。
だけど、スタートのタイミングが良すぎる。
「花井くんの顔が、ちょっと赤いし、田島くんの合図からして、多分、」
モーションを盗んだんだと思います。
そう言い切ったらモモカンは自分の世界に入ってしまった。
*
「三橋くん!逃げて、!」
自ら転がりながらも出塁した三橋くんは2塁を意識しすぎたのか、まんまと挟まれてしまった。
それを見兼ねたサードランナー花井くんがホームへと走り出す。
「どっどっち?!」
《スコアーザラン!》
「え、」
「スコアー…?」
「西広くん!先取点だよ!!」
どうやら花井くんのホームインの方が早かったようだ。
*
「何度だった?」
「7度8分です。」
「熱中症ではなさそうですね。」
先取点が取れて浮かれたいとこだけど、今日の三橋くんはやっぱりどこか違うようだ。
「桃ちゃん、」
「?」
「よく見といて?」
―加速してそのまま君のもとへ―
(何となく感じた)
(危険なサイン)
2011 10/30 魔女
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