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暗闇で見つけた、英雄の右手




「ただいま。」

「姉ちゃんおかえっ、ああ!智也くん!!」

「久しぶりだな、竜」

「どうした竜、ってはあ?なんでお前居んの?!」

「さっすが双子ー同じこと聞くんだなっ!」



まーいいじゃん。で、隼人は調子どーなの?



低すぎず高すぎないアルト声で話す智也は双子の兄と共にリビングへ消えていった。
優しい性格の智也は道端で困ってる人が居たら躊躇せず話し掛けるし、電車はおばあちゃんが乗って来たらすぐさま席を譲る。
いわゆるジェントルマン。

だけど実は結構意地が悪くて(野球絡むと特に)厳しかったりしたから、飴と鞭を一人で持ってるキャッチャーだった。
それこそ小学生のチームでは主将だったし、ボーイズでもキャプテン候補だった。
だけど、彼は「4番の任務果たしたいんで、候補から外してください。」なんて言った。
まあ、確かに4番と兼ねるのはとても大変だとあたしでも思ったけど、智也ならできるって思ってたから、驚きだったんだ。















「県大会、もうすぐだね。」

「おー。第二週の土曜だ、俺の学校」

「ベンチ入りしたの?」

「ベンチも何も、選抜メンバーだよ。」

「…随分と余裕なんだね」

「そーでもねぇよ?だけど俺は三回戦からだからさ。」

「Aシード?」

「そ。最初は公立の強豪か、勢いのある私立なんだよ。勢いって怖ぇーからやめて欲しいんだよなあ」



ははっと苦笑いをこぼす智也。
実は最近になって後悔してることがある。
それは埼玉に引っ越してきたこと。
こうして今、野球部のマネジとして楽しく過ごしてるんだから、横浜でも同じことができたんじゃないかって。
こんなの、都合良すぎなんだけど。



「桃、」

「 ? 」

「やるからには全力でやれよ?」

「…なにを?」



本当はわかってるけれど、わざと聞いてみた。
智也がくれる言葉はあたしを前へと進めてくれるはず。



「マネも選手も。全力で。中途半端はウィングスの恥、だからな。」







―決別の道を選んだこと―
(もうお前は前に進んでるんだ)
(戻ることは、許されないよ)


提供:星屑
20111002


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