▼30



二つの扉を、同時に開けるのは、不可能?




いつも通り、充分なストレッチをして、30分みっちりキャッチボールをして、その他諸々をいつもと変わらず行い、グラ整をしていた。
本当にいつもと変わらない。
田島がはしゃぎすぎて泉と花井に怒られ、葉山としのーかが向こうからオニギリを運んできて、うん、いつもと同じ、だと思いたかった。



「ねぇ」

「あ、水谷も気づいた?」

「なんかものすげぇがたいいいよな」



三人でチラッと外野の向こうを見る。
黒の学ランに短髪。肩にはエナメル。
”これ”が日常を非日常としてる原因だ。



「お疲れさまでーす!」

「おっ、オニギリですよー!」



まあ何も言われないし、気にしなくていっか!!















千代ちゃんとバイバイしてからみんなを待つために自転車置場へ向かった。
あたしの方がほんのちょっと早かったみたいで、遠くにみんなの影が見える。
そんないつもと変わらない日だった。



「桃見っけ。」

「えっ?」



聞き慣れた声に思わず振り返る。
短髪に学ラン。肩にかけられているエナメルには”Seikai”なんて刺繍がされてて見るからに野球部だった。



「…なんで?」

「葉山家に訪問がてら桃のマネ姿見に来た。でいい?」


悪戯っ子のような笑顔と優しい声で話すのはあたしの相方―川上智也だった。



「部活は?」

「ミーティングだけ。明日は横浜市民の特権である開港記念日だよ。」



うらやましい?と聞いてきた彼に、全然。と答えた。
なんで、どうして、と疑問は絶え間無く増えるけど、それと反対に彼の笑顔に落ち着く自分が居る。



「ちょっと待ってて!」

「ん?」

「みんなと、バイバイしてくる。」










―手放してみたらわかるから―
(葉山、あの男と帰んのかな)
(あー!アイツ、ウィングスのキャッチャー!)
((えーっ?!))



水谷→田島→らーぜ
2011 10/01 提供:星屑


[ 31/37 ]