▼29
「留年て、本当にあるんだね。」
ボソッと呟いた一言は誰に届くこともなくグランドへと消えた。
応援団長に名乗り出た浜田くんは田島くんたちと同じ9組で1つ上だった。
マンガの世界だけじゃないんだって口にだしたら、浜田くんに苦笑いされちゃった。
(ごめんなさい浜田くん!)
「桃ー!今日は右で投げてくれ!!!」
「はい!」
朝練最後のメニューはバッティング練習。
それのラストに必ず人の投げた球を打つ。
さっき田島くんに言われた”右で投げてくれ”っていうのは、打撃投手であるあたしの投げる腕の指定。
左で投げればコントロールの良い球(スクリューとか投げれます)、右で投げればスピードの速い球(今現在MAX125くらいだけど)(あ、これ榛名さんタイプだっ!)。
田島くんは速球を打ちたがるから、いつも右って頼まれるんだよね。
「千代ちゃん!ご飯炊けた!」
「よしっ!ちょっと早いけどオニギリ握っちゃおうか!」
5時集合21時解散の練習が始まってから、新しくオニギリ作りがマネジの仕事に追加された。
「あれ、エビテン2つ?」
「うん。田島くんが嬉しそうだった!」
オニギリの中身は、”最後の一汗”で決まるのだ。
「今日はジャングルジム氷オニだ。」
「うっし!葉山、オニ頼むぜー!!」
「はいっ!いーち、にー……」
氷オニは必ずあたしのオニから始まる。
氷った回数が少なかった人からオニギリの具が選べる。
「なー、今日葉山俺のこと狙いすぎじゃね?」
「………そう、かな?」
「なんだよ今の間!」
「てか、自分の犯した罪も忘れんのかクソレ」
「はあ?!」
「お前、昼にコイツが大事に取っておいたレモンティー全部飲んだじゃねーか!」
「…、クソレのくせに!」
「ははっ。その恨みを氷オニにぶつけたんだね!」
―そよ風は巡ってきた―
(水谷、明日は塩むすびだなー)
(それはいやぁぁー!!)
20110930 By星屑
←→
[ 30/37 ]