▼19


誰よりも、何よりも、野球が1番だったから。




「んな、あれって葉山かなァ?」

「え、どれ?」



田島があれ、って言って指さした方には二人の男子(恐らく高校球児)と一人の女子が居た。



「そうじゃね?だってエナメルに西浦(ウチ)の帽子ついてっし。」

「やっぱり!うし、行ってこよーっと!」

「ちょおい!田島ぁ!!!!」



俺の声は虚しくも風を切るだけだった。
多分葉山であろう女子はものすごく楽しそうに話してる。
(ウキウキしてるっつーのかな)



「なんか今朝の葉山、いつもと違ったよな!」

「それ俺も思った!今まで聞いたことないくらいデケぇ挨拶でグランド入って来たし。」

「俺なんて”はいどうぞ!”ってドリンクもらっちゃったぜ?」

「ここに来るのも張り切って出てったよなあ。昨晩ので何か、吹っ切れたカンジ?」


「みんなー!三塁側だってよ!早く行こうぜぇ!!」

「…ま、イイ意味で変わった。ってことでいいんじゃね?な、泉?」

「そうだな!…オイ田島ぁー、走んなー!!!!」








「ねぇ、さっき誰と話してたの?」

「?さっき?」

「ほら、入り口んとこでさ」



先程席を取った所へ案内して各自席に着いた。
あたしは沖くんと泉、くん(未だ呼び捨てにできない)の間に座ってます。



「ああ!葵くんと涼くんは、小学校のとき、同じチームで、私の…」



そこで言葉が詰まる。
こんなこと、みんなに言っていいのかな。



「葉山、俺たち、葉山が何言ったって馬鹿にしたりしないから、ね?」

「ああ。」


「…っ、私たちの憧れっで、それで、ライバルのバッテリー、なんだ。」



そう言ったらみんなニッコリしてくれて、そこから段々話は逸れていった。








「浦総は甲子園行ってからずっと強いよな。」

「武蔵野は野球よりサッカーだよな」



武蔵野ってどっかで聞いたことあるよーな…。
それも、ものすっごく身近で。



「そうそう。サッカー部の応援したくて武蔵野行く女いたよ」

「あー居るよなー。」

「武蔵野ってやっぱりサッカー強い?」

「(やっぱり?)ああ。どんくらいの成績かはわかんねぇーけど、結構強いと思うぜ?」

「武蔵野知ってるの?」

「あ、う、えっと…うん。」



知ってるというか、ものすんごい身近な人がそこのサッカー部に所属してます。
なんて言えなかった。








―モラトリアムだと分かってよ―
(なんかあの顔思い出したら寒気が…)((さっきまでの勢いはどこへ?))


桃→沖


2011.08.29
提供:魔女


[ 20/37 ]