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前を向いて、右足から一歩二歩。




「よいしょっと。…こんなカンジかな?」


GW最終日、私に与えられた仕事は、


「一塁側、人多いなあ…」


県大の試合を観る為の席取りでした。
試合までは時間あるけど、このカンジだと三塁側のスタンドは一向に埋まらない気がする。


「みんなのこと、入り口まで迎えに行こう!」


小さいエナメルを肩から下げてその場を後にした。








「何をそんなに急いでンのお兄チャン。榛名は逃げねぇから「うっさい。」


GW最終日、俺達は県大のベスト8の試合だった。
ちょうど前の試合が秋大で負けた武蔵野で、ピッチャーである榛名を見る為に観戦の時間をとった。


「柴先輩が一塁側に居るって言ってから行くぞ。」

「ん。」


高校に入って、俺は野球に対する気持ちが中学ん時とはガラリと変わった。
三年の先輩達を、甲子園に立たせたい。
この気持ちはあん時と一緒だ。
小6の夏にあった、大会の時と。
一つ下のバッテリーと優勝するって約束した、あの夏と。


「なあ、葵」

「んー?」

「もし、桃がここに居たらどうする?」

「はあ?アイツは横浜に居んだからここには「あせこ、見てよ。」



涼が指さした先には見覚えのある顔があった。
黒髪にパッチリした目に低い身長。
あの頃に比べたら随分と伸びた髪は二つに結ばれている。
俺達は無意識のうちに歩きはじめた。



「桃、か?」

「 ? 」



涼が話しかけて振り向いた顔を見て改めて驚いた。
返事をしないで首を傾げるだけで応答する姿は相も変わらず。



「涼くんに、葵くん?なっ、なんでここに?!」

「それはこっちの台詞。なんで埼玉に居んの?」

「春に引っ越して…ちょっといろいろあって…。二人は?千葉に行ったんじゃなかったの?」

「はあ?俺達が転校したのは埼玉だぜ?」

「誰がそんな嘘言ったんだ?」

「監督が「葉山ー!席どこーーー?」うわ!い、今行く!」



恐らく同じ学校なのであろう奴らがユニホームでこっちに向かってくる。



「桃ケータイあるか?」

「うん!あ、番号…」

「いいよ。お前の女房に聞いとく!」



ニヤニヤしながら言った涼に対し、女房って?と?だらけの桃。
このカンジも変わんねぇーなあ。



「それって智也?」

「おう。ほら、早く行かねーと怒られっぞ〜」

「っやだ!またね、葵くん、涼くん!」









―それは青空の下の記憶―
(さーて、智也にいろいろ聞かねーとなあ)
(…あんまイジメんなよ。)

涼→葵


2011.08.28
提供:星屑


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