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右手を掲げた英雄
「たっ、田島くん!」
「んおっ?」
「…あたし、田島くんと、その…荒シーと試合、したことあるんだよ!」
みんなに囲まれながら、あたしは小学校から野球を始めたこと、中学は横浜のボーイズに入って、三年でエースナンバーをもらったことを話した。
そして話はあたしがずっと言いたかったことへ。
「それっていつの話?」
「中3の全国の二回戦で…」
荒シーは関東でも1位、2位を争う強豪。
そして荒シーと肩を並べるのがあたしたち、横浜ウィングスだった。
「桃ってもしかして、ウィングスの葉山…?」
「うん。田島くんには、いっぱい、打たれたよ」
中学の頃から田島くんはスゴかった。
球種の多いあたしはどちらかと言えば、打たせてアウトを取るような投手ではなかったけど、彼にはそれが通用しなかった。
「あれ桃だったのかよ〜」
「葉山って全国行ってんの?」
「ウィングスっつったら全国大会の常連だよな?てか何で言わねぇーんだよ。」
ギロリと阿部くんに睨まれた。
(こっ怖い…)
「だっ、だって…もう野球、できない、と…思ってた、から…」
女が野球なんてできないってことは小さい頃から知ってた。
だからもう、関わらないと思ってた。
ボールに触れることだけが、”野球”だと思ってたから、過去の栄光なんて…。
でも、そうじゃないってわかった。
花井くんが言ってくれた、あの一言で。
「えっと、あの、ね?私は、横浜ウィングスってチームで投手で、得意な球はストレートとスクリューで、試合中はバッターの観察が好きで、それと!…去年の夏、ボーイズ内だけど、全国で1番になり、ましった…」
最後の台詞で部屋が静まる。
知っていた田島くんは「最後の1球、すげぇキレェーなスクリューだったよなァ〜」と呟いていた。
「みっ、みんな?」
どうしようかとあたふたしてたらモモカンがやって来た。
「その様子だと、もう話し聞いちゃったのねぇ。ここで1つ提案なんだけど、今から桃ちゃんが全国制覇したところ、見ない?」
―嬉し涙を流した日―
(葉山、足速くねぇか?)
(ちっ、チームで1番、遅かった、けど…?)
2011.08.25
提供:星屑
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