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もう一度、戻りたい夏がある。

中3の夏、猛暑の中迎えた10回の裏、2アウトランナー二塁。
あたしが抑えれば、勝ち。打たれれば、負け。
延長になった時点でマウンドを降ろされると思ってたのに、監督は何も言わなかった。
あたしは、認められてたんだ、きっと。

顔が暑い。うまく息が出来ず、肩が激しく上下する。

向こうに居るバッテリーのサインに頷いて投球板に足をかけた。
確か、アイツはストレートって言ってたな。
ボールに軽く力を添えて、大きく振りかぶった――――――。








「―――って、葉山聞いてる?」

「っあ、ごっごめん!なんだっけ?」

「もー、だからね、さっき泉がぁ〜」


今は授業と授業の間にある休み時間。
水谷はさっきから何かについて必死に話してるけど、全然頭に入ってこない。

あの夏、確かにあたしはあの球場の、1番高くて1番太陽に近いところに立ってた。
やっともらえたエースナンバーに、興奮しすぎて眠れなかったのを思い出す。
あの頃は、ただただ必死にボールを追いかけてた。
夢であり約束だった、《甲子園》だけを考えて。








「葉山ー、授業始まんぞー」

「へっ?みっ、水谷、は?」

「アイツならとっくに自分の席戻ったぜ?」


なんか不機嫌だったけど…なんかやったか?

阿部くんの一言に、小さなため息が出た。(またやっちゃった…)
水谷の話をちゃんと聞かなかったのはこれで二度目。
イチゴミルクあげたら、許してくれるかな。あとで購買行こっと。





―真夏の日差しと入道雲―
(去年の夏は応援される側で)
(今年の夏は応援する側に)


2011.07.24
提供:純粋サイダー



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