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急いで、焦って、転んだだけだった。





「車10分ぐらいだそうです。」

「ありがと。荷物持って!門まで行くよ。」



あのあと、9回の裏でバッターだった織田くんをしっかり抑えてみんなは三星に勝った。



「つぐなうチャンスをくれないか!」



さあ帰ろうとしてる時目に入ったのは、三星ナインに囲まれてる三橋くんだった。
また何かをされてるのかと思ったけど、さっきとは全然雰囲気が違う。
(この声は…畠くん?)

人間って、本当に可哀相だ。
大事なものに気づくのにこんなにたくさんの時間を必要とするなんて。本当に…



「ま、また試合しよっ!…イヤ…し…して…ください…」

「絶対、な!」

「うおっ」



それでも、どんなに時間がかかっても、こんなふうに元通りになってしまう私たちは、単純なだけなのでしょうか。








「なあお嬢ちゃん」

「おわっ!」



肩を叩かれたと思ったら、後ろには織田くんが居た。



「自分、名前は?」

「…葉山、桃…」

「ほんま?!ほんまなん?!」



肩を掴まれグラグラと揺らされる。
(うっ気持ち悪いっ)



「横浜ウィングスのエースナンバー背負ってたん、葉山ちゃんやんな?」

「なっ!なっんでそれを…」



何故、今日初めて出会ったこの人があたしの過去を知っているのだろうか。
このことは西浦のみんなにだって言ってないのに…



「ボーイズの本家は関西や。ボーイズで女の子でエース言うたら、自分しかおらんやろ?」



また会う機会あったら、バッターボックス入らしてェなぁ〜。と言って織田くんは去った。









「おいっ。」



帰ってきて合宿最後の夕飯も食べ終わり、部屋でゆっくりしてるみんなの元へ飲み物を持って行った時、



「…な、に?」



阿部くんに捕まった。



「織田が言ってたやつ、本当か?」

「うえっ!(誰にも聞かれてないつもりだったのに)」



「どうした阿部」



いきなり大きな声を出したからか花井くんを先頭にみんなが周りに集まってきた。



「…本当、だよっ!」

「……」

「なあ、阿部。俺たち全く話が読めねぇんだけど。」

「何を葉山に聞いたの?」

「…コイツが中学ん時、ボーイズでエースだったのかって聞いたんだよ。」








―まだこの先には道があるから―
(あたしの野球人生は、まだ終わらない)
(もう一度、全国制覇するまで、まだ、まだ。)


2011.08.22
提供:星屑


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