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努力することをやめた投手は、そこまでだ。




「案外近かったな!」

「なっ。」

「にっ荷物、あたしも持つ!」

「おー、んじゃこれ持って」


とうとうやってきた三星学園との練習試合の日。
自分が出るわけじゃないんだけどすごくワクワクしてます。


「桃ちゃん、お願いがあるんだけど…」

「ん?」

「ドリンク作ってきてもらっていい?」








優しい千代ちゃんのお願いを断れるはずがなく、(むしろ断る理由がない!!)
水道でドリンク作ってます。
千代ちゃんはウグイス嬢を頼まれたらしい。


「こんなんでいいかなぁ」

―ガッ!―

「へ?」


不自然な音がした。
しかも、誰か怒鳴ってる?








「みっ三橋くん?!」


慌てて茂みに入っていったら、うずくまってる三橋くんと


「ちわす。」

「…ちわ」


阿部くんと三星の捕手さんに会った。








「向こうのチーム、女がピッチャーらしいぜ?」

「まぢ?俺らも随分ナメられてんな〜」


試合の度に言われる台詞。
最初はこの台詞だけでマウンドに上がるのが怖くなってたけど、慣れってものは恐ろしく、何とも思わなくなった。
いや、それよりも投げてこの人たちに勝ちたいって思うようになったんだ。
勝敗で、自分の強さを証明してやりたかった。
それをアイツに話したら、
「んじゃ俺も、桃の強さを証明できるような捕手にならねーとな」
って言って笑ったんだ。








「オレもっ、阿部くんが好きだっ!」


目の前でウチのバッテリーが話してるのを見てて、防具をつけてニコニコ笑ってる智也を思い出した。


「阿部くん!」

「んあ?」


やっと心が通じ合った二人を見てたらこっちまで嬉しくなって、思わず彼の名前を呼んでしまった。
なんて言おうか。
おめでとう?―何が?
お疲れさま?―それじゃ三橋くんに失礼だ。


「…何だよ。」

「っ、その…」


よかったね。

そう言ったらちょっと驚いた顔をして、阿部くんは優しく笑ってくれた。
(あっ、阿部くんが笑ってくれた!)


「さ、行こう。試合前に各打者の特徴教えてくれ」

「はいっ!」


颯爽と駆けてく二人を追って私も走る。
(…ん?手元が軽い……)


「あああ!阿部くん!それは私が持たないと!」

「別にいーだろうが。さっさと行くぞー」





―少し不器用なだけなんです―
(どーした葉山、)
(阿部くんが、優しかった!)
((はああああ?!))



水谷→桃→らーぜ

2011.08.16
提供:星屑


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