昨晩は満月だった。彼は、ジェームズたちと一緒にどこかへ消えた。私はその場に居合わせることを許してはもらえなかったけれど、そこでいったい何が起こっていて・リーマスが何者なのかはちゃんとわかっている。わかっていながら、愛した。 その時点ですでに覚悟はできているのだから、私としてはもっと甘えてくれてもいいと思うのに、彼はなかなかそうしない。たとえ向こうが大事にしてくれているつもりでいたとしても、やっぱり他人行儀は寂しいのだ。なんだか、すごく自分が無力に思えて。 「恋人なのになあ、一応」 このあいだ背中にひと際大きな切り傷を見つけて(どうやって見つけたのかは聞かないで欲しい)、せめて力になれれば、とマダム・ポンフリーからよく効く塗り薬を貰ってきた。けれど、タイミングが掴めなくて未だに渡せていない。 自分が情けなくて仕方なかった。リーマスは私になんて想像もつかないくらい頑張っていて、苦しんでいて、私はそんな彼と共にいたいと思ったのだ。それなら。 私は大きく息を吸うと、そのままバスルームに踏み込んだ。 「リーマス……?」 「ん? えっ、どうしたの、セン」 「お薬。塗ってあげようかと」 ちょうどシャワーを終えたばかりだったらしいリーマスは最初目を丸くしたけれど、よほど私が切羽詰まった顔をしていたからか、すぐに表情を柔らかくする。 円椅子に腰掛けたまま背中をこちらに向けてくれたのを肯定と受け取って、私はそっと彼に触れた。 「ねえリーマス」 「何だい」 「私って頼りない?」 「……どうして」 「なんか、私リーマスのために何もしてあげられてないから。もっと、色々、我慢しないで甘えてくれればいいのにって」 傷口に爪が当たらないよう気をつけながら、指先を滑らせる。軟膏の独特の匂いが鼻に付く。 リーマスがどんな顔をしているのかはわからなかった。ただ、ぼんやりと「そういうわけじゃないんだけど」と呟かれた言葉に耳を傾けて。 「きみといると、僕はどんどん狡くなっちゃうから」 視界が色を変えたと思ったときにはもう、彼は私を抱きしめていた。シャンプーか何か・カモミールのいい香りに目を細めているあいだに唇を奪われ、その身体からしたたり落ちる水滴が素肌をじんわりと濡らしてゆく。血液が巡り巡って、頭が沸騰しそうに熱い。 大きな手を私の胸元に押し当てながら向けられた彼の目は、今までに見たこともない欲を孕んでいた。 「……我慢、しなくていいの?」 止めるなら今のうち、と言わんばかりの指先はやがて緩やかに降下。 そして、私の。 |