だから、私は彼にキスをした。 「……よかった」 「何がです」 「ちゃんと息してるなあ、って思って」 笑顔を作っても、冗談を言っているつもりはない。それはレギュもわかっている。わかっているから、彼は私の手を掴んで自分の左胸に導いたのだ。きっと。 とく・と・くん。僅かに乱れた鼓動が愛おしい。そう思ってレギュの目を覗き込むと、彼は至極不器用に頬を赤くさせた。 「どきどきしてる?」 「当たり前でしょう」 「どうして」 「センさんが好きだから」 今日は珍しく素直だ。 「センさんはどきどきしないんですか」 「うん」 「どうして」 「私はね、ほっとするの」 レギュが今ここにいて、私を好きでいてくれることは、当たり前でも何でもない・ただの奇跡だ。泣きたくなるくらいの幸せがいつこの手から摺り抜けていってしまうのか、いつも不安で仕方がない。 だから、レギュの存在を全身で実感するとき、私はとても安心する。穏やかな時間が永遠に続けばいいと思う。 そんなこと彼には絶対言えないけれど。 「レギュは女の子みたいだよね」 「……ぶっころしますよ」 からかいの言葉を投げれば、滅多に言わない冗談を言う。いつも冗談みたいなことを本気で言う、私の代わり。これでなかなかバランスは取れているのだ。恋人同士、だからね。 レギュの鼻先をぴんと弾くと、今度は彼のほうからキスをされた。息もつけないくらいの熱いやつ。あのレギュラス・ブラックがこんなに情熱家だなんて、知っているのは私だけでよかった。 追いかけて、追いかけられて、絡まって縋って愛し合う。やがて名残惜しそうに糸を引きながら、ゆっくりと唇が離れた。 「たとえ地獄に落ちたって、私はレギュとキスするために何度でも這い上がるよ」 「ええ。ぜひそうしてください」 僕はあなたを抱きしめるために生きているんですから。 とくん・とくん。さながら恋愛ドラマのように、夜はお決まりの幕切れを迎える。彼の片耳がそっと私の胸に当てられた。 どうか安らかにおやすみなさい。 |