テキスト | ナノ
 キスをするとき、鼻から抜けていくメントールの匂い。私はこれが嫌いだった。
 わざとらしく顔をしかめてみせると、セブルスは私なんかよりも俄然不機嫌そうに眉間の皺を深くする。私はこれが好きだった。もう、たまらなく。

「また私のキャンディ食べたでしょ」

 べたついた黒髪を撫で付けながらそう言うと、彼はばつが悪そうにその行為を甘んじて受けていた。
 ハニーデュークス製・色とりどりの飴玉が詰まった小瓶は、先日マルフォイ先輩がホグズミード土産にくれたものだ。セブルスはすぐにそれを私から取り上げて、寮にある自分の部屋の枕元に置いた。
 セブルスの管理下でのみ、私はそれを口にすることを許される(しかも、瓶の中身が偏らないように味まで指定されて)。けれど彼はときどき、しかも恋人と過ごす甘い時間を意図的に狙って、そのうちの一粒をくすねるのだ。よりにもよって、あの白くて憎いやつを。

「お前はあれが嫌いだろう」
「でも、私がもらったお菓子なの」
「きみがそんなにマルフォイ先輩を好きだなんて知らなかった」
「すぐ卑屈になる癖直したほうがいいよ」

 わかってるくせに。
 ぽつり・と呟けば、セブルスは満足げに滅多に見せない笑みを浮かべる。まったく意地が悪い。

「色彩は均等でなければならない。美観を損ねるからな」
「……何それ」
「僕ときみを取り巻くものは、すべて完璧であるべきだろう」

 彼は私に負い目を感じているのは知っていた。本当に変えたいのは他でもない自分自身のはずで、それが叶わないから何もかもの責任を周りに押し付けて。
 私はそんなセブルスを好きになった。けれど諭したところで、彼は絶対に納得しないだろう。だから、言わない。
 そういうセブルスの弱さが私は愛しかった。性格の悪さならこれでおあいこだ。

「私は、きみがいればそれでいいよ」
「薄荷キャンディは」
「嫌い。……だけど、セブルスとのキスは好きだからね」

お互いの痛い部分を舐め合いながら、そうやっていつまでも。
 私は小瓶の中の白い飴玉をひとつ舌先に乗せる。彼と重ねた唇は甘かった。



ペパーミントは私の