シャワーを終え、就寝まで勉強でも・と訪れた談話室で、彼女はやけに嬉しそうな顔のリーマスに声をかけられた。クィディッチの試合でグリフィンドールが勝利した日はいつも遅くまで寮で小さなパーティが行われており、それは今日も例外ではない。この時間になるとみんな疲れて談話室にはほとんどいないはずなのに、その期待を俄かに裏切られたセンは目を丸くする。リーマスの笑みが深まった。 「こんな時間まで熱心だね」 「元の頭がよくないからね。ルーピンこそここで何してたの?」 「さっき梟便が届いたんだよ」 言われて彼の手元に目をやれば、なるほどリーマスは可愛いらしいピンクのリボンがかかった小さめの紙袋を持っている。ほのかに、甘い匂い。この時間に届くということは、おそらく校内の誰かからの贈り物なのだろう。 「セン、プレッツェル食べない?ハニーデュークスの新しいやつ」 「……女の子からのプレゼントじゃないの、それって」 「そうだけど」 「じゃあ要らない」 悪戯仕掛人たちの中でも、甘い物好きが共通しているリーマスは彼女と特に気が合った。センも彼の柔らかな物腰にはなかなか接しやすいものがあるようで、しばしばふたりで菓子を分け合ったり食事をしたりすることもある。 だが今回は話が別だ。あの包みは、誰かリーマスへ好意を寄せている女子生徒が彼に送った精一杯の気持ちなのだろう。そう考えたら、第三者の自分が安易に受け取るようなことはするべきでないと彼女は思った。申し訳なさそうにその旨を告げると、彼は彼で困ったように眉を下げる。 「まあ、きみならそう言いかねないと予想はついていたけど」 「ごめん」 「でも、彼女が本当に僕のことを考えて贈り物をしてくれたのなら、僕は余計にきみにこれを食べてほしいと思うよ」 「どうして?」 きみと食べるのがいちばん美味しい、と笑った。贈ってくれた側のことを配慮するなら、受け取った本人が最も有意義なように消費したほうがいい・とのリーマスの主張もあながち間違っていないような気がして、センはただただ閉口するばかりだ。 ずい、と差し出されたお菓子は食べているうちに味の変わるチョコレートがかかったプレッツェルで、寮の生徒たちのあいだでも話題の商品だった。催促するように先で下唇を軽くつつかれ、彼女は仕方なしにそれをくわえる。 「……美味しい」 「本当?じゃあ、僕も」 端の方を咥内に含んだまま変化するチョコレートの味を楽しんでいると、おもむろにリーマスの口がそのプレッツェルの反対側を捕らえた。センは驚いて肩を強張らせたが、彼の行動の意図がわからずにただひたすら固まっている。最近の「友達」はこんなことまでするのか・と思考を巡らせるあいだ、リーマスはじわじわと着実にそれを食べ進めていた。 鼻孔を満たす甘さはチョコレートか、或いはまだ湿ったままの彼の髪から香るソープの匂いか。艶めいた瞳に彼女が思わず見入ってしまいそうになったそのとき、唇と唇の距離が限りなくゼロに近付いて 「……ごちそうさま」 プレッツェルが折られた。 はっ・とした瞬間に襲ってきた言いようのない恥ずかしさが、センの顔を真っ赤に染める。しかし目の前にいるリーマスは、もうすっかりといつもの様子に戻っていた。一気に肩の力が抜けるのがわかる。 「本当だ。美味しいね」 「、うん、」 「それじゃ僕はこれで。おやすみ、セン」 その晩、熱はいつまでも引かなかった。 |