しばらく私を連れて人目を忍んでいたシリウスは、テーブルからチキンを数本頂戴するなり中庭へ出ようとしたところをとうとう友人(と思しき眼鏡の青年)に捕まった。世渡りの上手そうな親友くんに私がにっこりと笑いかけると、傍らから盛大な溜息が聞こえてくる。 「セン・カタヤマだ。よろしく」 「ジェームズ・ポッターです。女性の前でこんなになってるシリウスは初めて見たので驚きました」 こんな、ってどんなだ。 ジェームズくんは名前を聞いてすぐ、私の社会的立場を理解した。聞けばスケッチャーズのファンらしく、うちの「透明マント」を愛用してくれているのだと言う。そういえば昔そんなものを作ったような(あれは機能こそ画期的だったが・あまりのコストパフォーマンスの悪さにすぐ生産中止になったのだ)。 「一度、あれを考えた人とお会いしてみたかったんです!この僕以上の天才なんて、そう簡単には見つかりませんからね!」 流石シリウスの親友くんなだけあって、彼自身ひと癖もふた癖もありそうな男ではある。だが、きっと根は悪いやつじゃない。シリウスの良い友人とこうして知り合いになれただけでも、今日のパーティに来た意味は充分にあったというものだ。 「は・きみは面白い子だな。……って、う、わ、っ」 うちの会社の製品についてジェームズくんと語り合っていると、唐突に強く腕を引かれた。見上げたシリウスの顔は今までにないくらい不機嫌で、吊り上がった眉の角度がなんだか妙に笑える。 利かん気の強い「飼い犬」が今度こそ中庭へ出ようと歩き出すので、苦笑しつつもジェームズくんに手を振って・そのあとをふらふらと付いていった。ヒールの靴は何度履いても慣れない。 「何へらへらしてんだ」 中央の噴水の縁に無理矢理私を座らせ、シリウスは低い声で唸った。 「はは。妬いているのか?」 「そうだよ」 「……えっ」 てっきりまた「んなわけねえだろ!」と癇癪を起こすだろうと踏んでいたのだが、予想外に彼がそんなことをのたまったため、私の思考回路は一旦停止する。 なんだこれは、新手の反撃か。私の見立ててやった燕尾服に身を包んだシリウスが、全く見知らぬただの男に見える。 そして、そんな「ただの男」は、懐から品のいい装飾が施された小さな箱を取り出した。 「……拾い物なら元の場所に、」 「俺からあんたにメリークリスマスだよ馬鹿」 「主に向かって馬鹿とは何だ!」 せっかくの包装紙をびりびりと破いて、箱の中身をぶっきらぼうにこちらへと差し出す。 ブラックオニキスがペンダントトップのシルバータグにさりげなく埋め込まれた様はまるで 「犬から首輪をプレゼントされる日が来るとは思わなかったな」 「いいから、ちょっと黙ってろ」 ペンダントと両腕を首の後ろに回された・と思ったのが最後、彼は私の唇に荒々しく噛み付いていた。 そういえば母国にはこんな言葉があったなあ。 |