両親はセバスに私の面倒を任せ、すぐにどこかへ行ってしまうのが常のことだ。「今日はあのブラック家のパーティだから、粗相のないように良い子でいるのよ」と、その日・母は言っていた。 十四歳の冬のことだ。あのとき、私は初めて言い付けを破った。セバスの目を盗み、こっそりとその場を離れたのだ。こんなところに、いつまでも居たくなくて。 そして、彼と出会った。 「どうしたの?こんなところで」 流石に人気はないだろう・と考えてやってきた裏庭で、思いがけず一人雪遊びをする少年の姿を発見した私は、彼に声をかけた。 黒髪に銀の目をした小さな男の子だ。背など、現在の私の半分もないかもしれない。 「お前こそどうしたんだよ」 見かけとは裏腹の利かん気そうな態度に、少し狼狽する。けれど、その後彼が先程まで作っていた小さな雪だるまを差し出してくれたので、私はすぐ少年に対する認識を改めた。 冷えきった頬に手を添えて、傍らにしゃがみ込む。 「詰まらないから、抜け出してきたんだよ」 「ふうん、じゃあ俺と一緒だな」 「きみもそうなの?」 「おう。家は嫌いだ」 突然の同犯者との出会いに、私たちは顔を見合わせて笑った。 「お前は自分の家、好きか?」 「んー。家はよくわからないけど、父様と母様のことは好きだよ。だから辛いことがあっても頑張れるし、欲しいものだって我慢できる」 「逃げたくならないか?」 「……それは」 会ったばかりの・それもこんなに小さな少年に、今まで自分が押し込めてきた感情を指摘され、ぐっと言葉に詰まる。 両親の期待に応えたい(だけど)愛されたい(本当は) 「だったら俺がでっかくなったら、お前をそこから連れ出してやるよ」 終いには目に涙さえ浮かべていた私の手を強く握り、彼はまっすぐにそう言った。その傲慢すぎるほどの言葉を、私は馬鹿みたいに信じてみたかった。 「……、待ってるよ、」 裏口の方から、大きな声で名前を呼ぶセバスの声が聞こえる。少年は私の返事に満足したらしく、視線だけで「行け」と言っていた。 最後に繋いだ手を一度だけ強く握り、私は帰る。いつか、彼が迎えにきてくれるその日を信じて。 「お嬢様!探しましたよ!」 「うん。ごめんね」 「まったく……、旦那様がお探しですよ。何でも、ブラック氏がお嬢様のために腕の立つ絵描きを呼んでくださったとかで」 それが、約束。 |