明日、シリウスがホグワーツに戻るらしい。それはあまりにも突然でいて、日を追う毎に私が想像を繰り返してきたことだった。 ベッドの縁に腰掛けた彼の頭を撫でる。ほんの数日前に出会ったはずのこの暖かさを、こんなにも懐かしいと感じるときが来るなんて。口元をそっと緩めると、それに答えるようにシリウスは目を細めた。 すべてのものには終わりがある。わかっていたはずだ。だから、私は「今まで世話になった」と目を伏せた彼に何も言おうとは思わない。 「そうか。じゃあ、元気で」 思わないけれど、声が震えた。シリウスが気付くか・気付かないか程度の、子供じみた動揺と我が儘。 気付かないで欲しかった。「飼い主」は私だ。それなのに、私ばかりがこんなふうに取り残された気持ちになっているなんて、できることなら知られたくない。彼を、困らせたくはなかった。 感情を押しとどめることは、小さな頃から得意だったはずだ。 「あんたはそれでいいのかよ」 しかし、そんな私の枷を外すかのように・シリウスは私に触れる。 クリスマスの夜以来になる唇の感触と、甘い眩暈。 「……良いとか、悪いとか、そういう問題じゃないんだよ。私はお前ほど青臭くはいられないんだ、悲しいけれどね」 「意味わかんねえ」 「いつかわかるさ」 そう言うと彼は眉をひそめて、首から下がった私のペンダントの鎖を軽く引いた。刃物の如き光を孕んだその瞳に、微かな既視感を覚える。 「じゃあ、そんな俺が今からあんたの代わりに、めちゃくちゃ青臭いこと言ってやるよ」 「は」 「俺はいつか、あんたの言ってることの意味を全部理解出来るくらいのすげえ男になって、あんたのことを迎えに来る」 「センが好きなんだ」 だから、待ってろ。 傲慢すぎるそれで以って、シリウスは私の名前を呼んだ。 今、私は決して彼の「飼い主」ではなく、彼は私の「飼い犬」ではない。 「……諦めの悪いやつめ」 「はは、何たって二度目だからな」 「いつから気付いてた?」 「最初。あの肖像画を見た時から」 それは、いつかの約束。 「こんなもの無くたって、私は今も昔もお前を信じているさ」 世界は一回転してこの手の中へ帰ってくる。だから、私はそれまでのあいだ、自分の総てを彼に委ねることにした。 「好きだよ。だから、また会おう」 |