僕たちに明日はない | ナノ
「センばっかりにこにこしてるだけで全然仲良さそうじゃなかったけど、お前ら、それでもいっつも一緒にいたな」
「何で知ってるのよ」
「そりゃあ、ずっと見てたからさ」

 一度大きく息を吐いて、シリウスはゆっくりと話し始めた。
 「本当に申し訳ないことをしたと思ってる」「俺が今まで自由にやってこられたのは、あいつがブラック家の子息として俺の代わりに頑張ってくれたおかげだ」「それで憎まれても仕方がないさ」。

「身勝手かもしれないが、俺はあいつには幸せになってほしいんだよ」

 それが、彼のすべてだった。

「……私、あなたを誤解してたみたい」
「いいさ。そんなもん慣れてる」

 どうしたってシリウスはレギュラスではないのだ。なぜなら、彼は

「レギュのお兄さん、なのね」

 静かに静かに泣いたシリウスを、うなだれた黒髪を、撫でることしか私にはできない。彼は私と同じだ。彼はレギュを、心から愛している。
 肩口に埋められた頭・縋り付いたその手を、拒絶なんてできるはずがなかった。



「何をしてるんですか」



 投げ掛けられたのは底冷えしたアルト。懐かしく響いたそれは、決してこの場にいるはずのない彼の声だ。
 シリウスが顔を上げる。ほとんど反射的に、視線の向かうほうを振り向く。
 レギュと目が合った。

「……レギュ?」
「行きますよ、先輩」
「えっ、ちょっと、待って、」

早足で歩み寄ってきた彼に力一杯手を引かれる。私の頭は混乱していた。
 こんなところにレギュがいるはずがないのだ。彼は私を軽蔑している、もう、どこで何をしていようと関係ない。こんなふうに触れられることすら、二度とないのだと思っていた。思って、いたのに。
 出口の近くまできてようやくシリウスに視線を送ると、彼は

「弟と仲良くしてくれてありがとうな」

と言って笑った。
 ドアは乱暴に閉められ、彼の姿が見えなくなる。けれど私はシリウスに託された。
 ……レギュと、話をしなければ。



「……こりゃあ、プロングスにヘタレ呼ばわりされても文句は言えねえや」



あと少しだけ