僕たちに明日はない | ナノ
 乱暴にローブのフードを被されて、シリウスにスリザリン寮の入口まで連れて行かれた。私は彼の前で泣いてばかりだ。
 本当は、すでに涙は引いていたのだが、眉をハの字にしながら頭を掻く彼を見ていたら何も言えなかった。これはもしかしなくても私を心配してくれているのだろう。そう、わかったから。

「どうして泣くか、聞かないの」
「聞いてほしいのか?」
「……やだ」

指摘された通り、彼にレギュのことを話すのは気が引けた。まさかシリウスは察してくれていたとでもいうのか。気が付いたら無性に恥ずかしくなって、落ち着かない両手で彼のローブを握り締める。
 シリウスが立ち止まり、至極丁寧な動作で私のフードを脱がせた。寮の扉が開く。

「入っていいか」
「駄目に決まってるでしょ」
「一人で泣かせたくないんだ」
「放っておいてよ、」
「何もしねえから!」

突然荒らげた声。けれどそれよりも、その強い視線に気圧される。私に感化されたせいか、なぜかシリウスまでが泣きそうな顔になっていた。思わず少しだけ後ずさると、彼は私の腰を引き寄せて結局、そのままスリザリン寮に入ってきてしまう。
 こうなったらもう仕方がない。幸運にも今の私は一人部屋だ、ずっと寝室にいれば他の寮生に知られることはないだろう。
 小さく溜息をついて、私は彼を女子寮の自分の部屋へ促した。

「本当に何もしない?」
「誓って」
「キスも」
「愚問だ」

シリウスが頷いたのを見届けてから、使われていない二つのベッドに向かい合って座る。そういえば彼は私のせいで夕食をろくに食べていなかったので、せめて足しになれば・と戸棚にあったチョコレートを投げて渡した。しかしシリウスはそれに手を付けることなく、興味深そうに室内の一点を見つめている。

「別に、あなたなら女の子の部屋くらい幾らでも入れてもらってるんでしょ」
「ああ……いや、写真が」
「写真?」

寝台の脇の、棚の上。そこに飾られた銀縁の写真立てには、まるで子供みたいに顔をくしゃくしゃにした私と・そんな私を横目で見ながら不機嫌そうに口を噤むレギュが収められている。
 シリウスの注ぐ眼差しは、まさに「兄」のそれそのものだった。



本当のことを言おう