これでいい。僕から離れて、好きな相手と結ばれて、彼女はきっと幸せになる。なれないはずが、ないのだ。 けれど僕の視界に映る彼女は、なぜだかいつも弱々しく微笑むばかりだった。 「どうした、レギュラス」 「……いえ何も」 兄さんが彼女に何かしたのだろうか。彼女が悲しい思いをしているというのに、なぜ僕は彼女のそばにいないのだろうか。考えてもきりがなくて、そのくせこの足は少しも動いてくれなくて、後ろ向きな思索ばかりがぐるぐると頭を巡る。もどかしい。 延々考え込んでいた僕を流石に訝しく思ったのか、スネイプ先輩が苦々しげに顔を歪めてこう切り出した。 「最近あの馬鹿女を見ないな」 「馬鹿女?」 「カタヤマだ。何かにつけレギュは・レギュは・と、喧しいことこの上ない」 僕に言ってどうする、と静かに悪態をつく先輩は、しかし心なしかいつもよりも言葉尻を穏やかにしているように感じられた。 「僕はてっきり、あいつはお前を好いているのだと思っていたんだが」 夢みたいなことをおっしゃるスネイプ先輩に苦笑を返し、魔法薬学のレポートに視線を戻す。せっかく夕食の時間返上で手伝ってもらっているのだ、早く終わらせてしまわねばならない。 彼女のことはもう、 「……どうやら違ったようだな」 「はい?」 「あの馬鹿女、さっきシリウス・ブラックを連れて部屋に戻って行ったぞ」 考えるより先に身体が動いていた。 夕食時で人気がないのをいいことに躊躇いなく女子寮へ踏み込み、彼女の部屋のドアを勢いよく開ける。なり振りに構っている暇などない。 「何をしてるんですか」 兄さんの手を握りながら、こちらに視線を向ける彼女の目は赤い。 頭に血が上る・と思ったときにはすでに遅かった。また僕は無理矢理彼女の腕を引いて、振り向くこともせずに歩き出す。 「……レギュ?」 「行きますよ、先輩」 「えっ、ちょっと、待って、」 何がしたい。僕はいったい、彼女に何を話すつもりなのだろう。彼女の涙を拭える存在は、決して今の僕ではない。 それでも腹が立ったのだ。許せなかった。一度は彼女を手放してしまった、愚かな自分。僕はただ、逃げていただけだと。 諦めきれるか。拒絶されても、傷付いても、ちゃんと伝えるべきだった。 「……すみません」 まだ兄さんに何か言いたげな彼女を無視して、連れて行ったのは僕の部屋だ(先程飛び出していったときの形相で察してくださったのだろうか、そこにもうスネイプ先輩の姿はない)。 「話が、したいの」 僕も同じことを言おうと思っていた。 |