「質問してるのは俺だ」 「……ただのさぼりだよ」 頭の後ろで腕を組みながら寝転び、苦虫を噛み潰すシリウスの隣に腰を下ろした。その眉間の皺が一層深くなったのを確かに感じたセンであったが、彼女としてはシリウスに対しそこまでの気を遣ってやる義理はないのだ。わざわざ耳に入るよう大きな音で放たれた舌打ちは、気付かないふりを決め込めばいい。 「優等生のくせに」 「普通の子より魔法の扱いが上手い自覚はある。でも、真面目な生徒ではないな」 「は、厄介なやつ」 自分でも思いの外落ち着いた声に、センは驚いていた。もともと他人と関わることを苦手としていた彼女だったが、今自らへ明らかな悪意を抱いているシリウスとこうして対峙しても、恐ろしいほどに心身とも穏やかなのである。もしかリリーたちとの出会いが、彼女をまた少しだけ強くしたのかもしれなかった。 冷静になってみると、このシリウス・ブラックという男は決して「悪」ではないのだということがわかってきた。彼は自分を好いていない。だが、それだけなのだ。彼自身に何ら否はない。 ブラックも実はそれほど憎らしい相手ではないのだな・と、センはごく自然にそう考える。 「きみと同じだよ」 何気なく口にした言葉だった。 ブラックという名家に生まれながら・血ではなく自らの意志を貫き、類い稀なる才能を持ちながら・友人たちと日々悪戯に興じる。そんな彼の強さを素直に尊敬し、少しだけ気を許したことからこぼれた、軽いからかいの言葉。 だが。 「……ふざけんな」 返ってきた感情を、いっそ殺意と表現できたらどんなに楽だろうか。 今までに見た中で一番険しい顔を浮かべてセンに跨がる、シリウスは頭に血が上っていた。爪を立てられた手首が痛い。 |