リリーに朝食を誘われたため、彼女と共にホールへ歩を進める。その途中で珍しく単独行動をしているリーマスと目が合ったので、彼女は躊躇いがちに手を振った。 「おはよう、セン」 「おはようルーピン。……残りの三人はどうしたの?」 「いや、それがね」 センと仕掛人たちの顔合わせのあと、妙に彼女を意識しているシリウスを、咎めついでにジェームズがからかったのだという。「ばかみたい、これだから男の子って!」センもリリーに全面同意だ。 案の定、シリウスは逆上した勢いで寮を飛び出していってしまい、未だに帰らないらしい。とすると、今は三人がかりで彼を探している最中といったところだろうか。 「そういうことなんだよ」 「……きみは、探してるふうには見えなかったけど」 「僕が動かなくてもジェームズがなんとかするさ。だいたい、悪いのはシリウスだ」 そう言ったリーマスの、柔和な笑みと言動があまりにミスマッチでおかしかった。おそらく彼はこういう人間なのだろう。穏やかな雰囲気は決して作為的なものではなかったが、ときに強かで頑固な一面もある。敵に回したらきっとシリウスの何倍も恐ろしい・とセンは思った。 「だから、よかったら朝食をご一緒させてくれないかな?セン、ミス・エバンズ」 「センがいいなら私は構わないわ」 「じゃあ三人で食べよう」 グリフィンドールの生徒たちが集まっているテーブルの隅の席がちょうど三つ空いていたので、そこに座ろうと椅子の背に手をかける。だが、センがそうするよりも先に、椅子はリーマスの手によって引かれた。 「どうぞ、レディ」 「……ありがとう。でもその呼び方はちょっと勘弁して」 彼の厚意に甘えるように席へ着くと、ローブのポケットに何か小さなものを入れられる。尋ねるより先にリーマスは「チョコレートだよ」と言って、自らも(おそらく)同じものをひとかけら口に入れた。 「好きでしょ?ジェームズが言ってた」 「好き、だけど、私がきみにそこまでしてもらう理由がない」 「だってきみは友達だから」 僕は嬉しいんだ、と彼は続けた。 「僕の大切な彼らが道を違えそうになったとき、僕は何もできなかった。でも、これからはきみが止めてくれる」 「買い被りすぎだよ」 「ああ、信じてる。だから頼んだよ」 有無を言わせない目だった。彼女はリーマスとしばらく視線を重ね、それから諦めたように溜息を吐く。どう考えても、彼はとても「いいやつ」だ。 「ポッターたちはいい友達を持ったね」 「きみは?」 「……私も、かな」 いつしか、彼女のささくれた心はすっかりと溶けきってしまっていた。 |