ホログラム | ナノ
「きみたち仲良くなったのかい?」

 ジェームズはグリフィンドールの才女ふたりを目敏く見つけるや否や、そう声をかけた。途端に俄かにリリーの顔が曇ったような気がしたが、生憎センの方は彼を無視する道理を持ち合わせてはいない。仕方なく、口の中のサンドウィッチをカボチャジュースで流し込んだ。

「ついさっき」
「それはすごく素敵なことだね!」
「うん。だから私たちのランチの邪魔をしないで、ポッター」

わかったよ!、とにっこり笑ってリリーの隣の席に陣取ったジェームズは、いったい何をわかったというのだろうか。センは心の中で小さく嘆息しながら、さきほど出来たばかりの美しい友人の眉が吊り上がるさまを見ていた。
 目の色が違う。彼女は思った。その飄々とした態度ゆえ少々真剣味には欠けるが、ジェームズがリリーに向ける視線には明らかに他とは違う何かが含まれている。それは考える必要もなく恋する男の熱情の視線だったのだが、いかんせんまだセンは「恋」という感覚をよく知らなかったため、ただ不思議げに首を傾げるばかりだ。

「品のない人間たちに囲まれて、何か悩みごとかい?ミス・カタヤマ」

 突如、厭味を存分に含んだ低い声が投げかけられた。心なしか、周りの生徒がいつも以上にこちらを見ている気がする。面倒事の嫌いな彼女にとってはいやな予感しかしなかったが、ここでこの声を無視したらあとからもっと面倒なことになりそうで、渋々と後ろを振り返った。

「……マルフォイ先輩ですね。スリザリンの監督生が、私なんかにご用ですか」

 ルシウス・マルフォイ。代々スリザリンの寮に配する純潔主義の一族、マルフォイ家の子息である。センは今まで直接面識を持ったことはなかったが、グリフィンドールを専ら目の敵にしていると悪評の高い彼が、どうしてわざわざこんなところまでやってくるのだろうか。

「ルシウスで構わんよ」
「はあ……マルフォイ先輩」
「私は他の低脳な生徒たちとは違う。きみの才能と美貌に単純に魅せられたのだよ、そんな奴らとつるんでいないでこちら側へ来たほうがいい」

彼女の疑問は、尋ねる間もなく饒舌なルシウスによって解消された。だが、それで気分まで晴れやかになったかといえば決してそんなことはない。
 自分はおそらくスリザリン側の人間だ。彼女自身、そう自覚している部分も確かにあった。センの家は純粋な魔法使いの血筋だったし、彼女は幼い頃から光よりも闇を好む傾向が強かったからだ。両親は彼女を愛しており・また彼女も同じように両親を愛していたが、センは愛など持たずとも、ひとりで全ての偉業を成し遂げることのできる力を持っていた。それ以上、他人に何かを求めるような行為は憚られた。
 力は彼女の心に蓋をしたのだ。そして、センはうまく笑うことができなくなった。けれど。

「……私は」
「随分と好き勝手言ってくれるね」

私の世界は私が選ぶ。そう言おうとした彼女を遮ったのは、さっきまでリリーに執拗にちょっかいをかけていたはずのジェームズであった。



一触即発