「すごいのね、あなた!」 そしてそんな彼らの驚きは、ジェームズに今まで散々と手を焼かされてきたグリフィンドール生、リリー・エバンズにも共通したものがある。彼女はセンを奇異な目で見ることも必要以上に取り入ろうとすることもなかったが、あの傲慢で高飛車なジェームズが他人に一目置く・というのがどれほど珍しい行為なのかを知っていた。 いつも通りいちばん隅の席でぼそぼそと昼食のサンドウィッチを頬張っていたセンは目を丸くする。お世辞とも本音ともわからない賛辞を受けたことは多々あれど、それを満面の笑みで真正面から言ってきた人間など、彼女の記憶にはなかったからだ。断りなく向かいの席に腰かけるリリーを眺めながら彼女はしばらく逡巡していたが、やがて全てを成り行きに任せようと決めて口を開いた。 「何が?」 「ポッターのことよ。あいつにはうんざりしてるの。でも、周りのみんなはあいつに何も言えやしないじゃない」 「……私だって、彼に何か言ったわけじゃないんだけど」 「それでもポッターは、あなたにはきっと頭が上がらないわ。尊敬しちゃう」 百面相だなあ、と思いながら、彼女はリリーを見ていた。笑ったり怒ったり、かと思えば突拍子もなく食事に戻って口をもごもごさせたり。ころころと変わる彼女の表情は、センがホグワーツに来てから出会ったものの中でも群を抜いて魅力的なそれに感じられた。だから彼女は、さきほどから延々と話し続けるリリーを拒絶することを放棄していたのだ。 やがてリリーは言った。 「私あなたと友達になりたいわ!」 友達。ともだち。トモダチ。そんなことを言われたのは初めてだ。 編入してきてから二週間、リリー・エバンズに出会ってからの時間はそのうちのおよそ十分程度に過ぎない。だが、この十分間で「初めて」が本当にたくさん起きた。 彼女は知ることが嫌いではなかったし、リリー自身の人柄もとても好きだ・と思った。言葉を返せないのは、ただ自分の気持ちをかたちにする方法がわからないだけ。 「リリー・エバンズ」 「なあに?……ところで私、名を名乗ったことがあったかしら」 「ホグワーツの人間の顔と名前はだいたい一致してる」 「まあ!セン、あなた本当にすごいわ!」 だから、彼女は黙って頷いた。 |