ホログラム | ナノ
 季節外れの編入生は、「風変わり」という言葉のよく似合う少女だった。
 ひたむきに腰まで伸びた黒髪、くるんとカールした睫毛に守られた切れ長の目、すっと通った鼻筋に、ぷっくりと厚みのある唇。東洋の国出身の魔女はホグワーツでも珍しいものではなかったが、彼女はその誰よりも美しい・と編入初日から生徒たちの注目を集めていた。学業成績も非常に優秀(というのも、彼女はその聡明さゆえ本来修学するべき学年とはひとつ上の五年生に属していた)。飛行術の授業ともなれば、およそ少女のそれとは思えないダイナミックなフォームで同僚のクィディッチチームのエースであるジェームズ・ポッターを、いとも簡単に抜き去ってしまった。それからというもの、彼女……セン・カタヤマの周りから、人の波が絶えることは決してなかったのである。
 だが、彼女が「変わっている」と称されるのは、何もその容姿と抜群のポテンシャルだけによるわけではない。
 男女・生徒教師を問わずここ数日で相当なアプローチを受けたであろう彼女は、しかし極力他人と関わることを避けているように見えた。多くは語らず、笑みさえ浮かべようとはしない。己へ向けられた疑問に答えるとき以外、誰かと行動を共にすることもない。彼女と世界のあいだには、見えないけれど確かな深い溝がある。それは誰から見ても明らかな事実であった。

「次の変身術の授業は休講になったよ」

 声をかけたのは、ジェームズお得意の単なる気まぐれだったのだろう。もしくは、己の得意分野においてそれを上回る実力を発揮してみせた彼女に対して、興味を抱いたのかもしれない。それぞれ・明らかな敵意で以て彼女を睨み付けていたり、あるいは全くの無関心であったり、羨望と戸惑いのないまぜになった瞳を向けながら戦慄していたりした彼の友人たちですら、「あのジェームズが自ら話しかけた女」として彼女をどこかで認めている部分があった。

「……そうなの。私このあいだの授業、居眠りして聞いていなかったから、危うく間違えて教室まで行くところだった。ありがとうポッター」

彼女は彼の名前を呼ぶ。少年たちは予想外の反応に言葉を失った(彼らは、きっと彼女は礼を言わないどころかドミトリー・メイトの名前すら覚えていないだろうと踏んでいたのだ)。ジェームズの動向を苛立ちながら見ていたシリウス・ブラックは「話せる口があるんだったら、最初からちゃんと話せよな」と眉根を寄せて舌打ちした。
 しかし、聞こえているのかいないのか、彼女がシリウスに対して言葉を返すことはなかった。



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