ホログラム | ナノ
(……何故こんなことに)

 ある日・魔法薬学の授業を終え、スラグホーンに片付けを頼まれたために他の生徒よりも少し遅れて教室を出た彼女は、偶然にも目の前で行われていたやり取りを見て頭を抱えることとなった。
 驚愕に抱えていた教科書を思わずぶちまける。そこにはスリザリンのローブを着た鉤鼻の青年、そして意地の悪そうな顔をした見覚えのある眼鏡が一人。ジェームズは鉤鼻の彼を壁際に追い詰めて、その喉元に杖を突き付けている。どうやら、双方ともセンの存在には気付いていないらしい。
 そういえば「ジェームズには、セブルス・スネイプっていう天敵がいるんだよ」とリーマスがにこやかに話していたのを聞いたことがある。そこで彼女は、あの青年こそが例の「セブルス・スネイプ」なのだとすぐ思い当たった。
 以前の彼女なら、必ず見てみぬふりをして通り過ぎるような場面だ。面倒事にはなるべく巻き込まれたくない。けれど、今回はどうにも放っておけなかった。

「いい加減にリリーのことは諦めたらどうだい?スニベルス」
「貴様に言われる筋合いはない」
「あるさ。きみに彼女は相応しくない、目障りなんだよ」

幼稚すぎる友人の言い分にセンは内心で嘆息した。
 ジェームズは、普段の飄々とした態度からは想像もつかないほど苛立ちを露わにしている。先日仕掛人たちと部屋で談笑したときとは、まるで別人だ。
 そして、小さな舌打ちと共に彼の杖が光を発しかけたとき

「っ、!」

彼女は飛び出していた。
 相手がジェームズとなれば、遠方から攻撃することも・呪文を跳ね返すこともセンにはできない。二人のあいだに割って入るのが精一杯で防護呪文を唱える暇など与えられなかった彼女を、ジェームズの魔法は強かに打ち据えた。細い身体が勢いよく吹っ飛ぶ。

「セン!?」

そこでようやく・彼女が一部始終を見ていたことに気付いたジェームズは、ばつが悪そうに顔をしかめて叫んだ。セブルスの方は、ただ呆然と硬直するのみだ。
 こめかみのあたりを血が伝っているのを感じながら、センは立ち上がる。足元がおぼつかぬほどの眩暈に、彼女は数度よろめいた。

「……あんまり、馬鹿なこと しないで欲しいな。ポッ ター、」

けれど、気丈に振る舞おうとした彼女の心は身体までも騙すことは出来ず、やがて視界はゆっくりと暗転していった。



ブラック・アウト