ホログラム | ナノ
「本当に、リーマスに付いて行かなくても良いのかよ」
「人込みは苦手なんだ。彼には悪いけど」

 なんだそれ・と突っ込みを入れようとしたシリウスは、実際とても申し訳なさそうな様子で眉を下げる彼女の姿に渋々言葉を飲み込んだ。他の仕掛人たちよりもセンと仲良くなるのが遅かった彼にとって、以前に比べて見るからに柔らかくなったその表情は・どれも初めて目にするものばかりだった。ついまじまじと眺めてしまう、そんな自分に気付き、シリウスは心の中でそっと溜息を吐く。
 満面の笑みでハニーデュークスへ向かっていったリーマスの背中を見送り、センとシリウスはひと足先に三本の箒でバタービールを楽しんでいた(彼女の分はシリウスの奢りだ)。到着するや否や、人に酔いながら「ちょっと……無理かも」と告げるとリーマスは心底残念そうにしていたが、店先から漂ってきた甘い香りにすぐに機嫌をよくしたようで、センはほっと胸を撫で下ろす。

「私といて楽しいのかな、みんな」
「……お前酔ってる?」
「バタービールじゃ酔わないよ」

 初めての友達。初めてのホグズミード。彼女は内心とても楽しみにしていたのだが、それでも一抹の不安を消し去ることはできなかったらしい。
 楽しいはずの週末が、自分のせいでそうではなくなってしまったらどうしよう。ついそんなことを考えるくらいには、センは「休日の楽しみ方」というものを知らなかった。ちょうど、リリーと出会うまでの彼女が「友達の作り方」を知らなかったのと、同じように。

「よくわかんねえけど」
「うん」
「俺も、あいつらも、楽しいかそうじゃねえかじゃなくて、単純にお前が好きだから一緒にいんだよ」
「……そっか」

らしくねえこと言ってんな・と頭を掻いたシリウスの方が、余程らしくないとセンは思う。彼自身その自覚はあったようで、僅かに照れ臭そうな顔をしながら残りのバタービールを一気に飲み干してしまった。

「ありがとう。シリウス」

 入口ドアの鐘が鳴り、センがそちらに目を向けた。お菓子の大量に詰まった紙袋を抱えたリーマスと、少しだけお互いに寄り添った雰囲気のジェームズとリリーが入ってくるのが見える。
 グラスの中で揺れる黄金色の飲み物は、他のどんなものよりも甘い匂いで笑顔を誘う。横から伸びた大きな手が、ぶっきらぼうに・けれど優しく、彼女の頭を撫でた。



幸せの端っこ