「やあ、おはよう」 ジェームズは未だ寝ぼけ眼の彼女の姿を認めるなり、それとはまるで対照の朗らかな笑みを浮かべた。 なぜ彼がこんな時間に・こんなところへ。そう問い掛けるよりも早く、ジェームズはセンの手を取るとそのまま談話室へ促そうとした。しかし、寝巻姿のままでいるのは流石に憚られる。その旨を伝えると彼は微かに眉を下げて「待っているから着替えておいで」と言った。 「お待たせ」 「構わないさ。僕がいきなり来たんだし」 「ポッターでも他人のペースに合わせたりするんだね」 「いんや、きみは特別」 向かい合ってソファに腰かけると、思い出したようにジェームズがジーンズのポケットをまさぐった。そして、よれよれになった湿布を二枚、彼女に手渡す。 「シリウスと仲良くなったみたいだね」 「仲良くなったわけじゃないよ。あれは、ただ仲直りしただけ」 言えば、ジェームズは満足そうに笑みを深くした。傍若無人に見えて、彼は誰よりも友を大切にする男だ。 手首に目をやると、そこはまだ鬱血の痕が色濃く残っている。だが、だからといって両腕に湿布を貼るのもなんだかおかしな感じがするなあ・とセンは受け取ったそれをひらひらと持て余した。 「ところできみって、休日でもローブを着ているの」 「出かける予定がないから」 「……そう言うと思った!」 唐突に大きな声を上げたジェームズの目は、完全に彼が悪戯のことを考えているときのそれだ(だが、このきらきら光る眼差しを、センは嫌いではない)。休日といえば、ふと・いつかリーマスと一緒にハニーデュークスへ行く約束をしていたのを思い出した。遊びに誘われるのなんて初めての経験だった彼女はほんの冗談として済ませていたのだが、もしやジェームズの話はそれと関係があるのだろうか。 「セン、ホグズミードに行こう」 ……どんぴしゃり。 「いいよ」 「えっ」 「自分で誘ったのに何驚いてるの」 彼の提案が見事に予想通りのものだったので、センは別段考えることもなくオーケーを出した。だが、それはジェームズにとっては予想だにしない反応だったようだ。いつもなら余裕そうに鋭い光を湛えているはずの双眸が眼鏡のレンズの奥で大きく見開かれているのを見て、彼女はこっそりとほくそ笑む。ついでに「リリーも誘ってみるね」と告げると、今度はその顔が火を噴いたように真っ赤に染まった。 「好きだよね、本当に」 「……ちゃんとお洒落してきてよ」 「ああそうだ、シリウスも誘っておいてもらえる?あんなよれた湿布だけじゃ割に合わない、って」 言うようになったな・とでも言いたげな彼の顔に、センは満足げに目を細めた。 久々に楽しい休日になりそうだ。 |