ホログラム | ナノ
 彼はセンを心底嫌っている(或いは、何か重大な誤解をしている)。それは彼女の目から見ても明らかな事実だった。
 いったい、何が彼をそうさせるのだろうか。彼女にはわからなかった。わからないことは知らなければならない。

「怒るのは、図星だから?」
「うるせえ」
「本当に?」
「黙れよ、殴るぞ」
「本当に、ブラックはひとりぼっちなの?スリザリンのほうが、似合ってる?」

ぎりぎり・と締め付けられていた手首の拘束が弱まり、シリウスの瞳が揺れた。それを見て、自分の言葉はどうやら核心をついたらしい・とセンが悟る。強張った身体も、シリウスが上体を起こすにつれてだんだんと力が抜けていった。
 今にも泣き出しそうな彼、とても小さな彼は、他人には理解することのできない葛藤や孤独に縛られている。センはそんな彼の目をただじっと覗き込んでいた。
 大切な友人のそのまた友人。彼が逃げずにいられるように、曲げずにいられるように、ただ、ただ。

「……俺は間違いなくグリフィンドールの生徒で、あいつらの親友だ」

息を吸ってからまた二呼吸ぶんほど置き、やがてシリウスは静かに言い切った。

「奇遇だね。私もきみやきみの友人たちのおかげで、今はそんなに寂しくないよ」

ありがとう。
 そう伝えたときの彼の顔がやけに間抜けで、センは思わず笑みをこぼす。それに気が付いたのか、シリウスは慌てて再び眉を寄せた。ああ。

「私とブラックは、きっと仲良くやれると思うんだけど」
「……意味わかんねえよ」
「だって似た者同士だから」

 一限の終わりを告げる鐘の音が、ふたりの頭上に響いた。



友とファンファーレ