運と命の展開図 | ナノ

51


「魔法の復活って…。みんなを…マグルをどうするつもりなの?」

「マグルの心配を私達がする必要がある?かつて魔法を知ったマグルが何をしたか知らない訳ではないでしょう?…魔法族の虐殺よ。魔法の力を恐れた世界政府が、魔法族の根絶を目論み酷い仕打ちをした。そんな彼らに情けをかける必要はないわ。でしょう?
この世界からマグルを消し去ってもいい。強力な魔法ならそれが可能でしょうから。奴隷にするのもいいわね…。」

女は悪い笑みを浮かべ、マグルをどうするかについてしばらくうっとりと考え込んでいた。彼女によれば、この世界ではかつてマグルと魔法族が同じ世界で暮らしていた。しかし遥か昔、世界政府によって“魔女狩り”のような魔法族の虐殺が行われた。この世界の魔法族が下した決断は、マグルとの分断ではなく共生。共生とは言っても、魔法を抑え包み隠してマグルに溶け込み、マグルと同じように生きていく方法だ。

「魔法は何百年もの時をかけてどんどん弱くなってる。大量虐殺の後、魔法を使わないように生きてきたんだもの、当然よ。そんな失われつつある魔法を取り戻そうと秘密裏に動いているのが、私達CP11なの。」

「…そんなマグル嫌いなあなた達が、どうしてCP9と一緒に?」

「私達の目的はあなたを捕らえること。そしてCP9の目的はニコ・ロビンを捕らえること。同じ麦わらの一味と行動を共にする者を追っていたから、利害が一致したのよ。もちろん、CP9は私達の本当の目的は知らないし、任務後にきちんとオブリビエイトもするわ。」

「でもどうして私が麦わらの一味だって…?」

「ウォーターセブンで突如魔法が検知されてあなたを見つけた。後を追ったら、麦わらの一味の船を出入りしていることはすぐに分かったわ。そして決め手はセビが売ったその箒。それを買うのは、本当の使い方を知ってる魔法族くらいしかいないわ。」

ウソップの治療を待つ間ロビンを探しに町へ行った時のことだと、なぎさはすぐに分かった。あの時誰かにつけられていると感じたのは、目の前の魔女の仕業だったらしい。

「ニコ・ロビンの護衛に協力すればマグル政府に良い貸しを作ることができる。内部情報も手に入れやすくなるわ。あなたもCP11に加われば、これまで通り、いえ、これまで以上に魔法が使えるようになる。愚かで非力なマグルに報復し、このマグルの世界を終わらせることができるのよ。」

「…私報復とか、別にそんなのには興味ないよ。それにマグルは愚かでも、非力でもないと思う。」

なぎさは今まで差別こそせずとも、心のどこかで「マグルは可哀そうな種族だ」と思っていた。魔法を使えず不便な思いをして暮らしていると思っていた。
しかし実際、悪魔の実という存在は特殊ではあるものの、マグル達は魔法が使えないなりに工夫して生きていた。マグル独自の技術や文明には目を見張るものがあった。
考えてみれば元の世界でもそうだった。車、汽車、飛行機…や家電やスマートフォンなど、機械を発明したのは全部マグル。魔法族が当たり前のように使っている物の中にも、マグルが作り出したものがたくさんあった。

「あなたが普段使ってる電伝虫や今乗ってるこの海列車だって、マグルが作ったものでしょ?だからマグルは可哀そうな存在でも、勿論愚かで非力な存在でもないよ!」

自分を犠牲にして、世界が滅びる恐ろしい兵器を政府が手にする可能性があることを知ってても、ロビンは麦わらの一味の命を守ろうとした。そんな彼女の想いを聞いた今、マグルなのか魔法族なのかは、なぎさにとって全く関係のないことだった。きっと他の麦わらの一味にとっても、ロビンにとってもそうだろうとなぎさは思った。
この先にロビンがいる。マグルの前で魔法を使うことは避けなければならない事だが、それを破ってでも守りたいと思う、大切な仲間がいる。

「…私はロビンを助けるためにここにいるの。」

「そう…まぁいずれにせよ、エニエスロビーでセビも交えてゆっくり話す必要があるわね。」

「…私の杖と、ロビンを返して!アクシオ!〈杖よ来い〉」

「コンフリンゴ!〈爆発せよ〉」

なぎさと女は同時に呪文を唱えた。なぎさの杖からは2,3回火花が散るだけだった。すぐ横の座席が女の呪文で爆発し、なぎさは手で顔を覆い飛んでくる破片を慌てて防いだ。
なぎさは続けて女から放たれた麻痺呪文をなんとか躱すも体制を崩し倒れこんだ。破片の飛び散った床で擦りむいた膝と手のひらがじんじんと痛む。

「ステューピファイ!〈麻痺せよ〉…わああ!そっちじゃない!!」

放たれた光線は逆噴射し、すぐ側で爆発したそれをなぎさはすんでのところで避けた。再びなぎさかが武装解除の呪文を唱えると、何故か汽車の窓ガラスが数枚割れ、雨風が音を立てて勢いよく車内に侵入してきた。女の武装解除呪文でなぎさの手から杖が離れる。続けて放たれた女の呪文でなぎさの体が浮き上がり、次の瞬間床に勢いよく叩きつけられた。体中が鈍く痛み、手も足も上手く動かない。

「だから言ったでしょう?あなたにこれは取り返せない。」

勝ち誇ったような笑みを浮かべる女に、なぎさは歯を食いしばった。
コツコツという女の靴音が近づき、かすんだ視界に、女のものと思われるヒールの靴が映る。なぎさが見上げると、ニヒルな笑いを浮かべた女がこちらを見下ろしていた。

「そこまで拒否するなら…いいわ。どうせ処刑する運命よ。殺してやるわ。今、ここでね。」


殺される――!!

直感したなぎさは力を振り絞り、自分に杖を向けた女の腕に飛び掛かった。
なぎさが女の手に触れた瞬間、ジュウッと何かが焼けるような音と共に女の甲高い叫び声が車内に木霊した。女の手から杖が滑り落ちる。女は勢いよくなぎさを振りほどき、大きく後ずさった。女の右手は火傷のように爛れ、赤く腫れあがっている。先ほどまでの余裕の表情とは裏腹に、女の額には冷や汗が浮かび、顔も苦痛に歪んだ。

「あなた…今何をしたの!?悪魔の実!?どこまでマグルに毒されているの!?」

「私…私何も…!」

なぎさは自分の手のひらに目を落としたが、何も変わったところはなかった。痛い、熱いとも感じない。もちろん悪魔の実とやらを食したこともない。

「嘘よ…じゃなきゃこんなことできない…!マグル共に魂を売るなんて…許せない!死ね!死ね!死ね!!」

「ちょ、ちょっと…!!」

取り乱した女がなぎさに突進し、なぎさの首を絞めようと手を伸ばしてきた。あまりの剣幕と、彼女に触れてしまえばまた何かが起こるかもしれないという不安に、今度はなぎさが後ずさる。
首に女の両手がかかり、なぎさは反射的に女の腕を掴んだ。再び何かが焼けるような音と断末魔が響き、女はその場に倒れこんだ。両手の火傷のような跡が痛々しく、なぎさは顔を顰め、肩で息をする女を見下ろし立ち竦んだ。そのなぎさの手には女にやられた時の擦り傷がいくつかあるだけだった。

「何…?何なの、これ…。」

なぎさはしばらく女の様子を窺った後、もはや動くことができない彼女の傍に腰を下ろし、女のポケットから自分の杖を抜き取った。
苦しそうな女をそのままにしておくのには気が引けたため、なぎさは女に石化呪文をかけた後で、彼女の両手に治癒呪文をかけた。火傷部分の腫れは引いたものの、女の腕には痛々しい跡が残った。



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