運と命の展開図 | ナノ

63


その昔、この世界では魔法族とマグルが共存していた。しかしある時、魔法を恐れたマグルの世界政府が、「魔女狩り」なるものを行った。
まさになぎさのように魔法を扱うことが出来る者達が、その力を持っているという理由だけで殺されていったのだ。その数は明らかになっていないが、当時の魔法族の8割以上がこの魔女狩りで殺された。

生き残った先人たちは、この世界で生きるために魔法を捨てる決断をした。魔法の存在を隠し、出来るだけマグルのように生きることを。
そうして年月が流れ、魔法は徐々に弱まり今に至る。もう、十分に魔法が使える者はほとんどいない。

…そして生き残った魔法族の一部が身を隠し集落を築いたこの島には、強力な呪いがかけられている。魔法族のマグルに対する全ての怨念が呪いとなり、この島に集まっているのだ。普段は島で一番大きな山の洞窟に封印されているが…ああ、あの大きな山だ。その呪いは島にマグルがやって来ると恐ろしい魔法生物達に姿を変え、日没後にマグルを襲いに来る。

なに、魔法の世界ではよくある話だ。強い憎しみや闇の魔法が呪いになって具現化し人を襲ったりする。
黒い雲が島を覆えば最後。マグルは島から出ようとすると山のように高い荒波に飲まれ、この島に留まってもその日の夜に生き物達に殺されてしまう。
村の者達はこれを「災い」と呼んでいるんだ。
我々モリオン家は唯一強い魔力を持つ家系で、災いが起こる度にマグルや島の者達を生き物達から守ってきた。とはいえ、数百年前に比べれば我々の力は微々たるものだがな。

そして7年前、ある予言の水晶が発見された。
エミリーの娘である「なぎさ」という魔女が呪いを消し去る、という予言だ。
とても驚いたよ。先程も話したが私の妹エミリーは30年前、15歳でこの島を抜け出し消息不明だったんだ。まさか生きているなんて、誰も想像していなかった。
エミリーはモリオン家でありながら生まれつき魔力が弱かった。守護霊を出すことができず、家族から除け者にされていた。そして30年前、それに嫌気が差したエミリーは、反抗心からかモリオン家に伝わるロケットを持ち出して島を出て行ってしまったんだ。
その彼女の娘である君が、この島を救ってくれるという予言が出た。

そして水晶が発見されたのと同じ7年前、ある男がこの島の全てを変えてしまった。
ギルベルト・イザーク。
この島で生まれ育った彼はエミリーと同級生で、魔法生物に詳しかった。イザークは何を思ったか「災い」の生き物達を操り、より狂暴化させた。そのせいで我々は生き物たちを鎮めることが出来なくなり、マグルがこの島にやって来る度に彼らを救ってやることが出来ず辛い思いをしてきたのだ。最近では村の者が襲われるという事態も発生している。このままでは島が破滅してしまうのではないかと、皆恐れているよ。

そこで我々は水晶の予言を頼りに、「なぎさ」という魔女を探した。君に、この呪いを終わらせてもらうために。
この島だけじゃない。このままでは、君のマグルの仲間の命も危ないんだ。どうか「災い」を鎮め、そして呪いを終わらせてはくれないか。


         *****


「なぎさ、大丈夫?顔色が悪いわ。」

ナミにそう言われ、なぎさは我に返った。次々に語られる母親の過去と自分の使命に、様々な感情がなぎさの中を駆け巡った。なぎさは、全てが何かの間違いならいいのにと心の底から思った。

「なァ、その魔法生物は、おれ達でもどうにかできるものなのか?なぎさちゃんにばかり負担を掛けるわけにはいかねェよ。」

「確かに生き物の多くは魔法以外の物理攻撃も効く。だが厄介なのは吸魂鬼(ディメンター)だ。」

「でぃ、でぃめんたー…?」

「人間の魂を食う生き物だ。奴らがその場にいるだけで、マグルはおろか魔法族も本来の力を出すことは出来なくなる。しかも奴らは魔法で生み出す守護霊でしか追い払うことができないのだ。なぎさ、守護霊を出したことは?」

「ないよ…。すごく高度な魔法だから、学校では習わなかった。だけど…皆を守るには守護霊を出せるようにならなきゃいけないってことだね。」

「あぁ、モリオン家の者なら守護霊を出せるが、元々の魔力が強くはないためディメンターを完全に抑えることはできない。しかも奴らはイザークによってより強力になっているんだ。しかし君ほどの魔力を持つ者なら…。日没まであと1時間ある…それまでに、守護霊の呪文を習得する必要があるな。私も協力しよう。」


守護霊を出すには、呪文を唱える時に最も幸せだった記憶を思い浮かべなければならない。クィディッチの試合でスニッチを掴んだ時、両親とテーマパークに行った時、友達といたずら専門店で買い物をした時…様々な記憶を呼び起こし呪文を唱えた。

なぎさがウォーターセブンでの宴を思い出した時だった。水水肉が焼ける音、ジョッキをぶつけ合う音、大勢の騒ぎ声や歌声が脳裏に蘇る。今まで他の幸せな記憶を思い浮かべた時と明らかに違うことは明白だった。心の奥の方が温かくなり、力が湧いてくる。なぎさは、今なら何でもできそうな気分だった。

「エクスペクト・パトローナム!(守護霊よ来たれ)」

なぎさの杖の先が一瞬青白い光を発し、その光はなぎさ達の頭上を飛んだ。
やがて光はツバメの形を作り尚も部屋を飛び回った。部屋が明るくなり、なぎさ達は思わず目を細めた。縦横無尽に飛び回る白いツバメの守護霊に、麦わらの一味は感嘆の声をあげていた。

しばらくなぎさ達がツバメを目で追っていると、ツバメは煙のように姿を消した。部屋は元の明るさに戻ったが、何となくさっきよりも暗くなったように感じられた。

「何だ今の!光がツバメになって空を飛んでたぞ!」

「えっと…守護霊の呪文って、こんな簡単にできるもの、なの?」

「君が持つそのモリオン家のロケット…それは魔法を強める効果がある。だから代々受け継がれてきたんだ。きっとそのロケットが君の力になっているのだろう。まだ君が持っておくといい。」

外で一際大きな風が吹き、ガタガタと窓が大きく揺れた。ナミ、ウソップ、チョッパーがびくりと肩を震わせ、音のする窓の方を見た。すっかり暗くなった森の木々は葉を大きく揺らし、暗闇から不気味に手招きしているようだった。

「もう日が暮れる…外へ行こう。ここにいては魔法も充分には使えまい。私となぎさがこの家に保護呪文をかけて、マグルの君たちをここに残すこともできるが…」

「おれ達も行くよ。襲ってくるヤツらなんか、全員ぶっとばしてやる!」

「君達のその自信がどこから来るのか分からないが…戦力は多い方がいい。一緒に来なさい。」

「ルフィはそういう人だから。…でもそれでいつも助けられてる。大丈夫!皆強いから!」

ルフィは膝を曲げ伸ばしし準備運動をしていた。他の仲間達も、襲ってくる動物達を全部返り討ちにするつもりらしい。彼らの頼もしさに、なぎさの顔に笑みが浮かんだ。

島を守るとかいう事は、正直よく分からないし荷が重すぎる。それでもせめて、仲間達はこの呪いから助け出せますように…

また強い風が吹き、窓が揺れた。今度は暗闇の中に、巨人ほどの大きさの何かが蠢いているのがぼんやりと見えた。




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