クロコダイルを目指しレインベースへと足を進める一味。
目的の場所に到着するとウソップとルフィが、先にお使いのために街へと向かった。
何か良くないことが起こるのではないかと残ったメンバーで警戒しているとその予感は的中。お使いに行っただけのはずだったルフィとウソップがナノハナの時と同じように大量の海軍を引き連れて逃げてきた。なぎさも今度こそ置いてけぼりを食らわぬようみんなと同じタイミングで走り出す。どうやらこの騒ぎでなぎさたちがここにいることもクロコダイルの組織、「バロックワークス」にバレてしまったらしい。
一味は、クロコダイルが経営するカジノ「レインディナーズ」を集合場所に、一度バラけることになった。
海軍から逃れるために懸命に走っていると、なぎさは恐ろしいことに気が付いた。
仲間が一人もいない。
いつの間にかみんなとはぐれ、街の路地裏を走り回り追ってくる海軍から一人で逃げていた。
ざっと数えて10人ほど。長いこと激しい運動をしていなかったなぎさの体力では、今にも彼らに捕まりそうだった。運動、と言っても、クィディッチでは自分で地面を走ることなどほとんどなかったのだが。
これは正当防衛、自分を守るためだから…!
そう心で何度も言い訳を唱え、足を止めて振り向く。
海軍も同じように足を止め、「へっ、諦めたか…!」などと言い口角を上げる。
名目上向こうが海軍、こちらは海賊(の仲間)だが、これではどっちが悪者か分かったものじゃない。素早く腰に着けていた杖を抜き海軍たちへ向けて振る。
「エクスペリアームス!〈武器よ去れ!〉」
突然杖を向けられたことに訳も分からず戸惑う海軍たち。唱えた呪文と共に、彼らが持っていた剣や銃が宙を舞った。
「なんだ!?」
「武器が勝手に!?」
「あいつ、能力者か!?」
「オブリビエイト!〈忘れよ!〉」
武器が手から離れたことにさらに困惑する海軍たちにすかさず「忘却呪文」をかける。
マグルの人たちに魔法を見られたら、すぐにその記憶を消さなければいけない。
なぎさは彼らが自分を追っていたことも忘れさせた。
「あれ、ここは一体…」
「おれたち、何をしていたんだ?」
もはや追ってこなくなった海軍を背に再び走り出す。
一刻も早くみんなと合流するためにレインディナーズへ向かわねば…!
路地裏を抜けようとするとバロックワークスの下っ端と思われる人たちに鉢合わせしてしまった。先ほどの海軍たちと同じように同じように人数は10人ほど。
「いたぞ!」
「こいつも仲間だ!」
今度は容赦なく剣を振りながらこちらに襲い掛かり、銃を構える彼らになぎさは再び杖を振った。
「ペトリフィカス・トタルス!〈石になれ!〉」
2度ほど杖を振ると、全員がそのまま固まりドサッと倒れる。
呪文通り石のように動かなくなった彼らにも忘却呪文をかけた。
「なぎさちゃん!」
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。慌てて杖をしまい振り返ると、サンジが息を切らしながらこちらへ走ってやってきた。
「よかった!心配してたんだ…ところでなぎさちゃん、これ、まさか…!?」
「あ、えっと、正当防衛…ってやつ」
「すげえ能力だな…とにかく無事でよかった。カジノへ行く前に、少し考えがあるんだ。」
目的地に到着し、サンジに続いてカジノの裏手へ回る。物影でサンジから「ここで待ってて」というジェスチャーを受け大人しく待つ。サンジは巡回していた敵全員を華麗な足技でものの見事に気絶させ、一人を脅してクロコダイル…Mr.0に連絡させた。敵が取り出したのは手のひらサイズのカタツムリの置物のようなもの。サンジに脅された男は震える手でそれを操作し、カタツムリから「ぷるぷるぷる」と間の抜けた音が聞こえてきた。
どうやらそのカタツムリは電話の機能を持っているらしく、サンジが誰かと会話しているのが分かった。
「ああ、その声、聞いたことあるぜ。…え〜〜こちら、クソレストラン。」
突然はっきりと訳の分からないことを言いだすサンジに、なぎさは足音を立てぬよう近付いて会話を聞いた。
『てめぇ、一体何者だ…?』
「おれか…おれはMr.プリンス」
『そうか…Mr.プリンス、今どこにいる』
「そりゃ言えねぇな。言えばおめー、おれを消しに来るだろう?まぁお前に俺を消せるかどうかは別の話で、易々と情報をやるほどおれはバカじゃねぇ…おまえと違ってな、Mr.0」
地を這うような低い声の後ろから、聞きなれた声が聞こえてくる。ルフィ、ナミ、ウソップ、ゾロが捕まっているらしい。その声は口々に助けを求めていた。なぎさはサンジに向かって、取れるのではないかというくらいに横に首を振った。
頼むから、挑発しないで…!
訴えには気付いているはずだが、サンジはなぎさに目を合わせてニヤリと笑った。
「はは…そばにいるみてぇだな。ウチのクルーたちは。ちなみにこっちは不思議の国のプリンセスも一緒だぜ…じゃあこれからおれは」
電話口から「よかった!」「逃げ切れたのね!」と聞こえてくるあたり、向こうはなぎさのことだと察したようだ。
言葉を続けるかと思いきや、突然サンジはそのまま捕えていた敵の銃を天井に向けて数発発砲した。
なぎさはその音の大きさに思わず両手で耳を塞ぎしゃがむ。
サンジは脅していた敵を組み敷きさらに脅し、電話の相手に私とサンジを捕らえたと伝えさせ電話を切った。
「さあ、行こう。」
次に何をするのかよく分からぬままサンジに続き部屋を出る。
念のためドアを閉める直前、なぎさは気絶した敵たちに忘却呪文をかけ自分やサンジのことを忘れさせておいた。
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