運と命の展開図 | ナノ

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マクロ一味のアジトは半月のような形をした人工的な居住区で、他人の姿はなく静まり返っていた。居住区の中心の海の真ん中には檻が吊り下げられており、中には真っ黒な何かが入っている。よく見るとそれは何かの生き物のようで、ケイミーやパッパグが「ハチだ」と騒ぎだした。

「やっぱ聞いた声にあの珍しいシルエット…おいナミ、どうだ。」

「うーん、怪しいっていうかほぼ…」

「聞いてみよう…おい!アーロンは元気かァ!?」

「ニュ〜!?アーロンさん!?あの人もチュウもクロオビもみんな海軍に捕まったままよ!おれ一人で脱獄してきて、今昔からの夢だったタコ焼き屋やってんだけど…しまったーーー!!」

「「おめェかやっぱりーー!」」

「…あー…一応、いつでも“はっちん”は解放できるけど…待った方がいい?」

「なぎさ…あいつはハチ。アーロンの元手下なの。」

なぎさも、ナミの出身であるココヤシ村の話は聞いていた。サンジの口から出た、「アーロン」という人物の言葉に、タコ焼き屋の“はっちん”がアーロンの手下、つまりナミの島をめちゃめちゃにした一人であることは想像に難くなかった。

「ナミちん!」

「ごめんねケイミー、あんたの友達が、まさか“あいつ”だとは思わなかったから。」

「ケイミー、これはちょっと、色々複雑な問題みたいで…。」

「そんな…じゃあ救出は助けてもらえないのね…!?」

「けっ!こいつらこんな薄情な奴らだとは思わなかったぜ!バ〜〜カおめェら!」

一味が動けずにいると、ケイミーとパッパグが海に飛び込み、ハチを救出しに向かった。しかし海中にはすでにマクロ一味が構えており、ケイミーとパッパグはすぐに捕まってしまった。ここは敵のアジト。敵がどこに潜んでいても不思議ではなく、迂闊に外に飛び出すのは危険だということは流石のなぎさにも分かった。ケイミー達が何度も海王類に食べられたり、人攫いに狙われる理由が、少しだけ分かった気がした。

「にゃろォ!ケイミーちゃんに罪はねェ!彼女だけは助けるぞ。」

「まってサンジくん……いいわ、ハチも開放しましょ。」

「ナミ!」

「ハチは大丈夫!実は無害な奴だから!だって、これじゃケイミーとの約束が違うもんね!…ルフィ!」

「おめーがいいんなら仕方ねェ!タコッパチも助けよう。」

目をタコ焼きの形にし涎を垂らしていたルフィは、もはやタコ焼きのことしか頭にないらしい。次の瞬間飛び上がりあっという間にケイミーとパッパグを抱え、敵アジトの方に着地した。

「ニュ〜!麦わらァ〜ありがとう!お前って奴はァ〜!恩にきるぞォ〜!」

「なぎさ!タコッパチを解放しろ!」

「任せて!」

「海からでも空からでもかかって来い!暴れてやるぞ〜!
野郎共!戦闘だァ〜!!」

「「うおおお〜!!」」

海から無数のトビウオが飛び上がったのを合図に、麦わらの一味も動き出した。
なぎさはハチの檻が吊り下げられた木の上に姿現しで移動し、バランスを崩さぬよう木の上に腰掛けた。

「うお!?おめー、どうやってそこに…!?」

「ごめん、それはちょっと言えないや…。レラシオ!〈放せ〉」

ハチを縛っていたロープが独りでに外れ、檻は錆びついて変色しハチが抜け出せるほどの空間ができた。仕事を終えたなぎさがサニー号に戻ると、刀に手をかけ戦いたくてうずうずしている様子のゾロがなぎさの方へやって来た。

「おい、おれを向こうに連れてけ。」

「そう?わかった。怪我はもういいの?」

「いらねェ心配だな」

ゾロがニヤリと口角を上げた。なぎさは呆れて小さくため息を漏らし、ゾロと共にアジトへ姿くらましをした。
敵にやられそうになっているハチ、ケイミー、パッパグをゾロがすんでのところで助けたが、本調子でないゾロはやはり直後に苦しそうに膝をついた。同時に、海の方で暴れていたらしいブルックが、海の上を走ってアジトの方へやって来た。

「えっゾロ!?」

「ドゥハー!もう限界〜!」

「ブルック、はりきってんな…トビウオだいぶ落としたろう。」

「ハァ、ハァ〜!お役に立たねば…でもちょっと休憩をば…ゾロさん、あなたやっぱりまだダメージが…。」

「こんな魚達に参る程じゃねェ。気にすんな。」

「だからまだトレーニングはダメだってあんなに…!」

「トレーニングしねェともっと動けなくなるだろ。」

「うわぁ!危ねェ危ねェ!」

「ルフィ!」

「逃げろ!でっけェの来るぞ!」

「でっけーの?鉄仮面か!?」

「仮面のやつと!牛!」

「牛!?」

奥の建物から姿を現したルフィの後ろから無数の銛が飛んできており、さらにその後ろからバキバキと建物を破壊しながら大きな影が姿を現した。ルフィの言う「牛」とは、マグルの世界の巨大なトラック程の大きさのバイソンだった。その上には鉄仮面をつけ大量の銛を持った男が座っている。「デュバル様」と呼ばれたその男の顔は明らかにサニー号の方を向き、まるで独り言のように誰かへの恨みを呟いている。

「…おれは今日ここで…!たとえ刺し違えようとも、必ずお前を殺す…!
海賊、“黒足のサンジ”!!会いたがったぬらべっちゃ…。」

突然名前を呼ばれたサンジは特に心当たりがないようで、大量の銛を撃ち込まれながらも必死に過去を遡っていた。

「おれ…あの仮面の下見た…!」

「本当か!?何者だよ?」

「サンジの知り合い?」

「今見せる!驚くなよ!?お前らも知った顔だぞ。」

「おれも!?」

ルフィは身を潜めていた物陰から飛び出し、一直線にデュバルの方へ向かった。そしてバイソンのすぐそばで飛び上がり、デュバルの顔面を蹴飛ばした。仮面は虚しく青空に舞い上がり、地面に落下した。
しかし、その仮面に目を向けているものは誰もいなかった。
現れた男の顔は、麦わらの一味なら誰もが見た、サンジの手配書のイラストそっくりだった。フランキーに至っては、そのあまりの不憫さに声を上げて泣き出している。

デュバルを見つめ固まっていたサンジは、突然なぎさの方へ顔を向けた。決してなぎさに向けられたものではないが、その表情は怒りで満ち溢れている。
サンジの意図を察したなぎさは姿現しでサニー号へ戻った。

「悪ィな、なぎさちゃん…。」

「いいんだよ。」

サンジのことも、デュバルのことも、なんだか可哀そうになってなぎさは苦笑いした。
そして、なぎさはサンジの腕を掴み、ルフィ達の元へ姿現しした。
アジトにやって来ると、サンジはそのまま先ほどのルフィよりも速いスピードで男の元へ走っていき、地面を蹴った。

「わがるが!?ある日突然命を狙われたオラの恐怖!なしてオラが…「海軍本部」に追われなぐっちゃならねんだ!オラが一体何をすた!?オラの人生を返せ〜!」

「知るかァ〜〜〜!!!」

サンジが食らわした強烈な蹴りはデュバルの顔面にクリーンヒットした。





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