21/11/3
サンジは女が好きだ。
出会う女、通りすがる女すべてに鼻の下を伸ばす。
たった一人、私を除いては。
子どもの頃からあのクソじじいの下で一緒に働いて、苦楽を共にして、一緒に大人になって。
気付いたらたった一人の兄妹…いや、姉弟みたいな存在になっていた。
流石に蹴られたことはないけど。彼のポリシーだし。
同じ「オールブルーを見つける」という夢を追いかけて、二人で麦わらの一味に入ったわけだけど、船長の胃袋は限界を知らなくて、他の野郎達もよく食べて、これだけ船員も増えて、今となってはコックが二人で本当に良かったと思う。
「サンジ、このスープ…濃くない?」
「あァ?いつも通りだろ。」
「うそだぁ、調味料いつもの5倍は入れたでしょ。」
「そんなヘマするわけねェだろ。おれは一流コックだぞ。」
「私だって一流コックよ。」
あぁ、今日は朝から頭が痛いのに、考えることを増やさないでほしい、本当に。
「あら、またきょうだい喧嘩?」
「ナミさん!…なァちょっと、このスープ味見してくれるか?」
「いつもより味が濃いでしょ?」
「だからんなワケねェつってるだろ。」
「…別にいつも通りよ?」
「ええ!?絶対濃いでしょ!みんなどうしちゃったの!?」
「どうかしてるのはお前だ……ナミさん、今日のスペシャルドリンクをどうぞ。」
「あら、ありがと。」
ヒラヒラと手を振りサンジにウィンクするナミ。
鼻血を出してふらつくサンジ。
あぁ全く話にならないわ。心なしか頭痛が悪化した気がする。
「おい!鍋!!」
「え?…うわ!」
部屋を出て行くナミをぼんやり眺めてたら、危うく今日の煮込み料理を台無しにするところだった。
女に見惚れて料理をダメにするなんて、サンジですらやったことないのに。
「お前、今日ほんとどうかしてるぞ。」
「もう、分かったよ。どうせ私の舌が狂ってるのよ。」
「いやそうじゃねェ。具合が悪そうだ。」
サンジが腰を曲げて私の顔を覗き込んできた。
あぁ、いつの間にそんなに背が伸びてたのね。
これまたぼんやりとサンジを見つめ返していたら、彼の顔が傾いた。
いや、私の視界が傾いた。
まだ頭は痛い。足に力が入らない。
そういえば体は熱いのに寒気がする。
サンジの焦る声がすぐ近くで聞こえた。
「それ見ろ、あとはおれがやるから今日は休め。」
サンジはひょいと私を抱き上げた。こういう時だけレディ扱いしてお姫様抱っこなんて。
鼻を掠める煙草の匂い。伝わる体温。なんだか変に安心してしまう自分がいる。
ちょっとくらい、甘えてもいいかな。
「…ごめん。ありがとう。」
そう呟いたら、サンジが優しく微笑んだ。
こんな時に、そんな顔しないでよ。
「早く治せ。野郎共の食事、おれ一人じゃ捌ききれねェ。」
「うそよ。できちゃうくせに。」
「ははは、そうだな。」
「むかつく。」
「けどおれ、おまえと料理するのが一番好きだからさ。」
まだチョッパーのいない医務室のベッドに私を下ろすと、サンジは
「チョッパーを呼んで来る」と言って医務室を後にした。
ベッドの上で、膝に顔を埋める。
サンジは私にメロリンすることはないけど、もうそれにも慣れたけど、
今の顔だけは、他の女にはしないでほしい、
かな。
チョッパーによると、ただの風邪。
凄い高熱だと驚かれたけど、たぶんあいつのせいだ。