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 まじないの花 02.六郎・佐助編


 小っちゃい才蔵は向こうの部屋で昨日に引き続き伊佐那海&鎌之介チームが独占中。
 質問攻めにしたり、わざと怒らせたりとやりたい放題。元に戻ったら二人は滅多打ちにされること間違いない。それをわかってやっているのだろうか。これも一種の愛情表現、とまとめておこう。
 そして私はどうしているのか、というと、幸村様とアナと一緒に子供になった他の二人の面倒を見ている。
 と言っても、幸村様はアナと佐助の様子をただ見ているだけ。そのアナは――。

「佐助ー! 逃げるんじゃないわよ!」
「否ぁぁー! アニャ(アナ)、怖い!」
「いいじゃないの。コレに着替えてくれるだけでいいのよ」
「それ、女子の着物。我、男。忍! 不可! しゃや(咲弥)――!」

 南蛮人から入手したらしい「制服(ブレザー)」とやらを佐助に着させるために捕獲しようとしている。どっちも忍だから、そう簡単には捕まらなさそう。でも、所詮は子供の体型。時間の問題かもしれない。
 あぁ。アナが任務時よりもかなりたぎってるように見えるのは、私だけじゃないと思う。



 あの二人は放っておいて、私は六郎とかるた取りをする。
 取り札を適当に散らばせて、向かい合って正座。呼吸を整えて準備完了。

「よし、準備はいい?」
「はい」
「読むよー。一寸先は……」
「はいっ!」

 さすが、六郎。速い。これは見やすいところにあるからね。
 六郎の勝ち誇った表情が何ともかわいらしい。
 でも、次はどうでしょう。

「次。餅は餅屋」

 ふふふっ。「も」は六郎から見て一番遠くて、私から見て一番近くにあるんだよ。
 さぁ、どうする?
 すると私の思った通り、正座したまま思いっきり手を伸ばして一生懸命に札を取ろうとする。
 あ、あと少し。あぁ、届かない。
 その反応、すると思った。
 ごめんね、意地悪して。やらずにはいられなくて……。
 そんな中、自分では取れないと判断したのか、六郎は私を見て必殺技を繰り出す。

「しゃや……」

 やめっ、やめて。その泣き出しそうな声禁止!
 おねーさんを苦しめないで。なんていうのは冗談で――。
 ――半分冗談で。
 この子、策略家なのかも。人の弱みを理解しているかのようだ。こんな風に言われたら負けるに決まってる。
 私は「も」の取り札を六郎の近くに置いてやり、もう一度読んであげた。今度は目の前にあるから意気揚々と札を取った。
 誰しも、この満面な笑みには勝てないだろう。

「次をお願いします」
「え、あ……うん」
「? しゃや……?」

 こうして、勝ち負けが目に見えたかるた取りが始まり、私の惨敗(取り札無し)で幕を閉じた。


「私の勝ちですね。一つ、お願いを言ってもいいですか?」
「お願いって?」

 もう一つわかったこと。
 子供の六郎って結構ストレート。
 私が聞き返すと、頬を赤らめてつぶやくように耳打ちする。

「しゃやと一緒に温泉に入りたいです」
「お、おお、温泉っ!?」

 まてまてまて。温泉って。
 まっ裸……。
 今、この場でのぼせそう。

「ろ、ろく、六郎! お、お温泉は……っ」
「いけませんか?」
「い、いや、いけなくはないけど、でも」
「では、決まりですね」

 にこっと笑った六郎は子供特有の純粋無垢なものよりも、今まで通りの六郎が時折見せる朗らかな笑顔そのものだった。
 その顔、反則だ――。


 こんな私たちを余所に、佐助とアナはまだ戦い中。そこになんと幸村様も加わることに。
 これで勝敗はついた。
 佐助はいとも簡単に捕らわれる。

「咲弥、やったわよー! 六郎を連れて早くこっちに来なさい!」
「なんか佐助が可哀想な気もするけれど……行こうか、六郎」

 はい、と返事をする前に私の手を取り歩き出す。小さな六郎の背が、あの時私を守ってくれた大きな背とかぶって映った。

[12/02/28]
六郎・佐助編といいつつも、佐助はギャグ扱いでごめんなさい。

[終]



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