まじないの花 02.才蔵編
「それにしても、才蔵かわいいっ!」
「ああ、ホント……食っちまいてえくらいに」
あの時から伊佐那海と鎌之介はその台詞ばっかりだ。
確かに、二人の言っていることすごくわかるけど、本人を前に言わなくても。お怒りモード全開なのだから。
「おい、お前らうっせえぞ!」
ほら、才蔵がかなり苛立ってる。
脳内も子供になっているから、思いっきり感情が見え見えだ。苛立ちを抑えられないのか、横の壁を蹴ってる。もちろん、蹴っても壊れるわけはないけれど。
才蔵ラブ、な二人はそんな姿にベタ惚れ。
何をするにも「かわいい」「食べたい」「あぁ、かわいすぎる」の繰り返し。仲が悪そうなあの二人が、才蔵の可愛いところを言い合ってはかわいいかわいいと手を取り合って興奮・暴走状態だ。それは昨日からずっと変わらない。
「チッ……おい、いい加減にしろよ! いしゃにゃみ(伊佐那海)ー、かまのしゅけ(鎌之介)ー!!」
本気で怒った才蔵がクナイを両手に一つずつ握り、伊佐那海と鎌之介の輪に向かって突っ込んでいく(彼らは話に花を咲かせすぎていて気付いていないけれども)。
だけど、やっぱり――。
「痛っ……」
自分の今の歩幅がわかっていないから、小さな段差につまずいてしまうわけで。
これで二回目。今度は畳の縁につまずいて転んでしまった。
畳の縁につまずくのは大の大人でもうっかりしていればよくあること。
私も時々やってしまうが、あれは、結構なダメージをくらうもの。地味に痛い。
才蔵がつまずいたところは今まで見たことがなかったが、忍になる前や半人前の頃はやっていたのかなと思うと自然と笑みがこぼれてくる。
「しゃや(咲弥)ー! テメエ……何笑ってんだよ!(その反応、すると思った)」
「あ、いや。こけたから、つい」
「つい、じゃねえ! 笑ってねぇで助けろよ。地味に痛い」
ぶつけた足を押さえて丸まっている才蔵もかわいい、なんて言わないけれど。
それよりも、昨日はあたふたしてたから気づかなかったけど、さっき、私のこと咲弥じゃなくて、しゃやって――。
何、この子。かわいい!
大人な才蔵はどこに行ったの?
だめだわ、私。伊佐那海と鎌之介の輪に入っちゃいそう。
いや、待て。その前に、手当てをしてあげないと。
部屋の隅のほうから見ていた私は腰を上げ、中央で丸まって動かない才蔵のもとへ嬉々として向かった。
「才蔵、かわい……じゃなかった。大丈夫? ぶつけたところ、腫れてない?」
私が寄ってくるのがわかるとむくりと体を起こした。
彼の視線と合わせるためにしゃがむ。あぁ、何だか膨れっ面だ。
すると才蔵は立ち上がり、私を見下して言う。
「体が子供になったからってガキ扱いすんなよな……」
「え?」
しょんぼりした顔で言うもんだから、なんだか胸が痛くなってしまう。
「なっ、何でもねえよ! それより、マジで痛え」
「はいはい、わかってますよ」
才蔵に背中を向けて、乗っていいよと声をかけると素直に従った。
そこから伝わってくる温もりはやっぱり才蔵のもので今も前も変わらないんだなと感じ、私達はこの部屋を後にした。
その後は、治療をしてあげて添い寝。隣で寝てくれ、なんて子供の姿じゃないと絶対に発しないもんね。でも、こんな彼もいいよね。
大丈夫だよ。小っちゃくても才蔵は才蔵だから。
だから、今は、おやすみなさい。
[12/02/28]
最終話だけ選択式にしようと思ったのにこんな展開になったので、選択式が増えます。
[終]