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 貴女が悪いのです


 貴女が悪いのですよ。
 いつもいつも、私以外の男にまでも無防備でいるから――。


 いくら注意しても、貴女は「だいじょーぶ、だいじょーぶ。私を襲うなんて、そんなこと誰も思っちゃいないから」なんて言うから。
 ですが、貴女は女であの人たちは男。そして、私も男なのです。冷静を装っていますが、貴女のそのような肌蹴た姿を夜に見かけ、少しも興奮しない男はこれっぽっちもいません。
 こうして私はある日を境に抑えというものが利かなくなってしまったのである。
 南蛮人が来るという噂を聞きつけては密かに出向き、あるものを持っていないかと尋ねる日々が続いた。そして、ようやく手にした。
 ふふっ、それは何かというとですね……毒、です。
 毒と言っても死に至ることはありません。ただ、人を支配する作用があるだけです。これを毎日欠かすことなく咲弥に飲ませています。
 もう咲弥はほぼ完全に私に支配されています。その証拠に……――。
 ほら、来ましたね。

「お待ちしておりましたよ、咲弥」
「ろっ、六郎……どうして、ここに?」
「どうして、とは? ここは私の部屋ですよ。咲弥こそ、なぜここにいらしたのです?」
「え、何で……何で、だろう?」

 今日も効き目はいいですね。
 誰にも気づかれないように毎日飲ませていますからね。これで飲ませてひと月が経ちます。
 さて、今宵で仕上げ。
 これで永遠に咲弥は私だけのものになる――。
 何もかも、こうさせたのは貴女のせいです。貴女が悪いのです。大人しくいうことを聞かないから。
 わかっていますか?
 ある時は、貴女が才蔵と肩を抱き合って笑っていたことに。
 ある時は、貴女が佐助と動物たちと無邪気にはしゃいでいたことに。
 ある時は、貴女が若や他の方々と酒を飲んでは酔って介抱されたことに。
 仕舞いには、縁側で着物を平然と肌蹴させて寝ていることに。

「そんなに深く考えなくてもいいのですよ。私は咲弥が夜にお茶をしに来るのをいつも楽しみに待っていますから」
「本当? 六郎、今日もいい?」
「ええ。もちろんです」

 襖を閉めて、突っ立っている咲弥を私の横に座らせる。今日のお菓子は何かなぁー、と呑気に歌って。
 私はお茶の準備をしながら「今日のお菓子は特別なものですよ」と答えを返すと、「早く、早くー!」とじたばたする。目を輝かせて喜んでいるのが想像できた。
 素直でかわいいですね、咲弥。
 ですが、貴女が想像しているものとは大きく異なったものなのです。


「そろそろ頃合いですね」

 茶葉を蒸らし終え、湯呑に静かに注ぐ。茶の香りがほんのりと漂う中、いったん注ぐのをやめ、懐から包み紙を取出して咲弥の視線がこちらにないことを確認して茶に混ぜる。溶けたのを目視し、再び注ぐ。

「出来ましたよ。先に一杯飲んでからお菓子にしましょうか」
「うん。ありがとう、六郎」
「さぁ、どうぞ……」
「いただきます」

 早く。
 早く、早く早く早く!
 はやく……飲み干してください。これで、もう、咲弥は――。

「ろ、六ろ……ろくろう、ほしい……ろくろう」
「わかっていますよ、咲弥。今すぐに」

 それでは、今すぐに貴女をいただくとします。
 私は虚ろ目の咲弥を横抱きにし、あちら側にある布団の上におろした。
 か細い声で私を求めているのが何とも気持ちが良いものでしたから、計画を変更することに。焦らしはしません。
 私は咲弥にまたがって彼女のかわいらしい唇を自らのそれで塞ぎ、右手で帯をほどいた。

[12/02/27]
六郎が別人……。六郎と才蔵の狂愛って特にいいと思うのは私だけ?

[終]



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