まじないの花 01.共通
そう。発端は些細な手違いだった――。
毎日じゃないけれど、佐助のお手伝い係を務めることになった。
そのうちの一つが、お薬づくり。
実際に薬は作らないけれど、一緒に薬草を採りに行ったり、その薬草をきれいにしたりと「薬」になる前段階のことを作業しているわけだ。
薬草はいろんなところになっていて、目的の場所がいつも同じというわけではない。採りに行くだけではなく、しょっちゅう使う薬草はいくつか育ててはいるのだけれども、育てるのも意外と楽しい。毎日水をあげる度に成長を観察して、一月も経てば目で見て確認できるくらい大きくなったなってわかる。それが嬉しい。
そんな今日は薬草採り。
佐助がたまたま発見したという森の奥深くへ。
「なに、ここ……」
見る目を疑った。
小さな滝が向こう側にあって、その滝からあふれる水は木や花の根元へと流れていっている。葉っぱについている水滴は、まるで宝石のように美しい。その草花の近くを艶やかなちょうちょが舞っている。
ここは、私達が絵の中に入っているかのような光景だった。
「我、ここ好き。咲弥、好き?」
「うん! 今まで見たことがないよ。すごくきれい!」
こんなところに薬草なんてあるのだろうか。
そう思いつつも、佐助が指差すほうへと歩いていく。
すると佐助が急に立ち止まり、自信気に花を指した。「ほら、あった」なんて心の声が聞こえた。
***
城に戻り薬づくりに取り掛かった佐助は、日が沈むまでには作り終えていた。
今は、幸村様への報告をしに向かっているところ。けれども落ち着かない様子。瓶を抱えて辺りをきょろきょろ見回している。
誰か通りかからないか、と思っているのか。それとも、特定人物を探しているのか。
佐助の後ろをついていく私には答えがわからない。
でも、その答えがすぐに分かることになる。
「……発見」
気怠そうに頭をかきながら真正面からやってくる人物を見、駆けていったのだから。
「才蔵、飲む。元気かなり出る」
「は? 何でだよ! んなわけのわからんもんなんか飲めっかよ!」
「否! 体力補強薬。薬!!」
「ふざけんな。俺は実験台じゃねえんだよ!」
「……役立たず」
「テメエ、やっぱり実験台にしようとしてんじゃねえか! って、変な薬を種まき見てえにまき散らかすな!」
佐助が自棄になってる。
「咲弥! 五、六歩離れた所から黙って見てねえで佐助をどうにかしろよ!」
「え? だって、それ――」
――少量なら体力補強薬になるから問題ないけど、多量に飲むかぶっかかると……。
どうやって助けに行こうかと迷っている間に、襖が荒々しく開いた。
そこから出てきた一人はこの事態を面白そうに笑っていて、もう一人はいつもの表情は崩さないもののため息をつく。あれは幸村様と六郎だ。
「お前ら、じゃれ合うのは構わんがワシの部屋の前で騒がしいぞ」
「他所でやってください。若の前では……っ!?」
六郎が異常を察知し、幸村様を開け放しにして出てきた部屋へと突き飛ばす。
それと同時に、佐助が持っている瓶が小爆発。
「あっ……」
避けて!
あの液体に多量にかかっちゃだめ!!
なんて言葉が出る前に、事は既に終わっていた。
佐助の馬鹿。振り過ぎると暴発するって自分で言っていたのに。これで、あの三人は――。
「さしゅけ(佐助)! テメエ、何すんだよ! この、クソじゃる(猿)!」
「ひっく、ひっく……ううっ! しゃや(咲弥)ー! 我、しゃいじょお(才蔵)にいじめられたぁー」
「あ……これは一体?」
あぁ、やっぱりこうなってしまった。
どうしたらいいものか。
彼らには悪いけど、これはこれで私にとっては眼福。とっても目の保養になるのだが、さすがに勇士が三人もこれだと上田が危ない。薬の効き目はそんなに長くはないと思うけれど。
すると、がばっと、佐助が私の胸に飛び込んできた。小さくなっても忍は忍、ということか。すごい跳躍力。それから、短くなった腕でしっかりと私の首に巻きつき、足は体に巻きついてきた。子供の佐助ってものすごく甘えん坊さんでかわいい。
「しゃや! 早くさしゅけから離れろ! 振り落せ!」
「えっ、振り落すなんて、そんなことできないよ……」
「ふざけんな! おい、さしゅけ! コイツは俺のだ! 俺だけが“だっこ権”持ってんだ!」
「才蔵? 才蔵ってこんなに甘えてくる子だったっけ?」
「は? ちっ、違ぇよ! 誰がアンタに抱き着くかってんだ!」
「しゃいじょお、うるさい。しゃやは、我の……」
「あっ、だめ……佐助、そこに顔うずめないで! こらっ!」
「……さしゅけーー!!!」
佐助の変態!
って怒鳴ってやりたいけど、子供になってるから狙ってやったとかそんなのは一切ないんだと思う。こいつら小っちゃくてかわいすぎるから我慢しよう。
「この騒ぎは……何事か」
突き飛ばされた幸村様はこの騒動に意識が戻ると頭を押さえてよろめきながらこちらに来る。
しばらく黙ってうつむいていた六郎が「若」と呼び、駆け寄る。
こんな彼らの姿を目にし、幸村様は口をパクパクさせている。
「ろ、六郎。これはどうなっている?」
口ごもる六郎。あまりしゃべりたくないみたいだ。才蔵と佐助よりはひどくないものの、きっと普通に言えないのだろう。
「それは……さ、さ……さしゅけの持っていた薬のせいか、と」
「ぶぶっ! 六郎、“佐助”と言えぬのか?」
「申し訳ありません……」
「よい、よい。愛い奴よのう、六郎。もう一度、申してみよ」
「若、私で遊ぶのはやめてください」
さて、これからどうしよう。とりあえず、皆を集めてこの状況を伝えておかないと。
こうして才蔵・佐助・六郎は小さな子供の姿になってしまったのである。
数刻後、小さな才蔵を見て伊佐那海と鎌之介が興奮しすぎて気絶したのはお決まりのこと――。
[12/02/27]
幼児化連載、完全なる管理人の趣味です。カッコ表記が多くてごめんなさい。
[終]