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 痛み


※六郎&夢主(特に六郎)共に病んでます。第三者に対しての暴力あり。


 私だけをまっすぐに見てくれる貴女の目が大好きでした。
 私の名を鈴の音のような可愛らしく呼んでくれる貴女の声が大好きでした。
 私の姿を見かけると、一目散に走ってきてくれる貴女の健康的な足が大好きでした。
 愛していますと紡ぐとそれに応答して口付けをしてくれる貴女の柔らかな唇も、手におさまるくらいの膨らみがある胸も、私を感じてはヒクヒクさせる蕾も、大好きでした。
 貴女のすべてを、私は愛していたのです。
 そして、それは貴女も同じことでした。
 互いに依存するように愛し合っていたのです。


 ですが、ある日、肌蹴た着物から貴女の体に無数の痕があったのを目にしてしまったのです。
 哀しい目をした貴女は、憤りを見せる私からの視線に逃れるかのようにうつむく。咲弥、とあくまでも穏やかに返事を促すと、彼女の口から信じ難い言葉が出ました。

「ある殿方の髪結いをしていたら、いきなり着物を剥ぎ取られ……触られた」、と。

 体を震わし、涙をこぼす貴女の姿は痛々しくて、見るに堪えなかった。
 それと同時に、私の内には、憤怒の炎がメラメラと勢いを増して燃えていた。
 よくも私の咲弥を、純粋な彼女の心も体をも穢してくれたな、と気持ちを抑えることが出来ない。
 私は畳の上に足を崩して座る彼女の肩を強引に掴んで押し倒した。

「私の咲弥……。私は、貴女だけが欲しいのです。愛しています。愛しています。咲弥だけをずっと。大好きです、愛しています……! 貴女の心も、体も、この髪の毛一本でさえも愛しい。私だけの物……」
「はい、六郎。私は貴方だけのものです……。それなのに、別の男に触れられてしまった。汚らわしくなってしまった。体に口付けられただけでも、気持ち悪い……気持ち悪い、汚いっ!」

 狂ったような叫び声をあげ、じたばた暴れて寝返りを打とうとする。それが叶わないと思ったら、今度は背中を畳にこすり付けるように上下に動き出した。「きたない、きたない」と連呼しながらこする動作は、まるで汚れを剥ぎ取っているかのようで。

「きたない……きたない、いやっ!! 私のからだは六郎の物……、っ!」

 動きが止まった。
 顔をひずませて、小さな悲痛の声に変わった。まずいと感じた直後、脇腹辺りが赤黒い色に染まっていた。

「な、何をやっているのです!! 誰の許可なく、貴女の体を傷つけていいと言ったのです?! 大切な、大切な体なのですよ……」

 若干の鉄のにおいが、鼻に刺激を与えた。それでも私は彼女の首元に顔をうずめた。
 ぺろっと舌先を這わせて思い切り吸って離すと、彼女の体に無数にあったあれと同じ痕がついた。他のところにも、と繰り返してやるとたくさんの華が見事に咲き誇った。

「さぁ、手当てをしましょうか」


***


 真夜中の帳が下りた頃、眠りについた彼女を確認して城を抜け出した(若には許可を取ってあります)。
 普段の格好だと目立ちますし、真田に仕える海野六郎だと知られては若にご迷惑をかけてしまいますし、不都合ですので、きちんと変装をする。犯人捜しに協力していただきましたし、何より当たり前のことですから。
 足音を消しながらも目的の住処へと辿り着くと、裏口の方から侵入した。
 そこそこの身分なのか、平民に比べると雲泥の差だった。
 もちろん、上田城よりは幾分にも小さい城。ですが、小大名なりの城を持っているということは……どこかに護衛がいる。緊張の糸を切らさないよう、どうにか天守閣らしき場所に忍び込むことに成功した。布団の上で盛大ないびきをかきながら寝る人物こそ、私のやる相手。
 そろりそろりと奴にまたがり、刃先を首筋に立てる。ツーっと滴る赤の液体が流れ、奴が目を開けた。

「な、何者だ貴様!」
「何者? クスッ……ええ、そうですね……貴方の寝首を掻きに来た、とでも言っておきましょうか」
「暗殺者か……皆の者、出合え、出合えー!!」
「フッ、無駄な抵抗ですね。そうはさせませんよ……」

 私は邪魔者が来ないよう、突き立てていた刀を戻し、もう一つの刀を取り出しては口元に当てた。そして、いつもの何十倍ものの威力の超音波を出した。あちらこちらから響いてくる音に、奴は驚きを隠せない。

「あぁ、これですか? 私の技です。相手の三半規管を攻撃しているので、これを聞いた者は皆頭がくらくらします。酷い時は、ぶっ倒れてしまいます。秘密ですよ……? ふふっ、ですが、貴方にそんな情報を与えて秘密をばらされることはありません……。今、この場で、私が息の根を止めますから。脅えないでください。その前に、ちゃんと生の時間は与えますから。“痛み”という名の時間を、ね……」

 人の痛みを知らない人間には、それ以上のことをしてあげればわかるはずですから。
 ですから、咲弥にしたこと以上に、私が返して差し上げましょう。

[12/04/05]
久々の狂愛。今回は六郎も夢主さんも病んでる設定です。「奴」はオリキャラです。

[終]



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