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 ⇒信頼しているから


 ――私のことを信頼しているからでしょうか?

 屈託のないその笑顔は、「私を信じているから」だと言いたいのですか?
 だから貴女は、大声を張り上げて助けを呼んだり、この場から立ち去らずに私のそばにいるのですか?
 すみません……。
 最初は貴女を裏切る行為をしようとしていました。めちゃくちゃにして、私だけの印を付けようとしていました。
 ですが、そんな咲弥を見て、気が変わりました。  

「……冗談です。少し意地悪をしたくなっただけです」
「もう。変な冗談はよしてよ」
「すみません。お詫びに、私の部屋に招待します。美味しいお菓子があるので食べませんか?」
「いいね、賛成。じゃあ、私は美味し〜い紅茶を持ってくー!」
「ふふっ、それは楽しみですね」
「うん。世界の紅茶が揃った店で買ってきたの。『トワイニーング』の日本じゃ売ってない味があって、美味いよ〜!」

 今にもステップして先に行ってしまいそうだったので、咄嗟に手をつかんだ。
 早く帰ろうと急かす咲弥は、やっぱりいつもと同じの咲弥で。
 私もいつもと同じ海野六郎に戻ろうと、気を狂わす建物から足早にここから遠のく方を選んだ。


***


 咲弥は、可愛らしいコップを二つとティーパックを自宅から持ってきた。
 封を開けて、コップに入れてお湯を注ぎながら自慢げに「どうだ、限定ものだぞ!」と言う。きっと、両手があいていたら腰に手を当てているのでしょうね。想像がつきますよ。

「ん? 六郎、どうしたの?」
「いえ……咲弥はいつも可愛らしいなと思って」
「ろ、ろろっ、六郎?!」
「半分冗談です」

 本当の想いを口にしたいけれど、つい冗談交じりになってしまう。
 貴女に嫌われはいない自信はありますが、異性として愛されている自身はさほどありませんから。
 ずっと一緒にいればいるほど、生温い関係を壊したくないと思うのです。けれども、反対に、貴女が欲しいと思いは募っていくばかりなのです。
 数日後、意を決して伝えますから――。

「待っていてくださいね」
「ん? 何を?」
「内緒です」

 これ以上彼女に攻められないよう紅茶を口に含むと、まるで淹れた本人の中身がそのまま表れたような優しい味がした。

[12/03/25]
別名『ノーマルエンド』。紅茶のブランドは有名なトワイニ●グから。

[終]



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