あなたに白湯、を 伊佐那海編
大変、大変ーっ!
咲弥が夜中に、ずぶ濡れで戻ってきたの。
どうしたのって聞くと、「ボーっとしてて川に落ちた。でも、大したことじゃないから皆には秘密ね」って。
咲弥がそう言うならっ黙ってたんだけど、食事の時間になっても大広間に来ないからもしかして思って――。
「咲弥っ!」
「伊佐那海……大丈夫だよ、ちょっと、ね……ふらついて……」
「あっ、危ない!」
襖に寄りかかって立っていたのだけれど、たまたま外れていたせいで襖ごと後ろにひっくり返る。このままじゃ、頭打っちゃう!
私が走っても間に合うはずもない。
そんな危機に、救いの手が差しかかる。
「おっと……オイ、大丈夫か?」
「さ、才蔵ぉー!」
「その声は、伊佐那海か? こりゃ一体、どういうことなんだ?」
「え、えっとー……咲弥が、熱出しちゃったみたい」
ごめんね。皆にばれちゃうけど、咲弥を助けるためだから許してね。
***
「――で、こうなったんだ」
「うん……」
「そんなに落ち込まないで。ありがとう、助けてくれて」
次の日、咲弥は皆の看病あってか、すぐに回復。
もう熱も下がって、食欲も戻っては来たものの、ぶり返さないように念のため今日一日はお休み。
「うんっ。でね、アタシ、すーっごく美味しい白湯の淹れ方見つけたんだよ!」
「ほんとに? お菓子も用意して、二人で飲もうか」
「飲む飲むー! じゃ、今から取ってくるからー!」
「いってらっしゃい。待ってるから」
「うん。絶対に、そこ動いちゃダメだからね」
「はいはい。わかってるって」
――今日はアタシが占有してやるんだからっ!
[12/03/10]
本当はアナも出すつもりでしたが、ずっと伊佐那海のターンだったので変更です。
[終]