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 あなたに白湯、を プロローグ


 それは、予兆もなく起きた。

「きゃっ、冷たっ!」

 雨なんて降るはずのない晴れ渡った日に、上と横から大量の水が降ってきたのだ。
 おかげで咲弥はずぶ濡れ。着ていたものが体中にまとわり付くほどに。その体からは水が滴り、地面に水たまりを作っている。
 この日は何も用事はないから、城下町では有名なお菓子を買いに行こうとしていたのに。こんな恰好じゃ、もう行けない。
 いったい、さっきのは何だったんだ。
 どうして、晴れているのに雨が降る。しかも、横側からも降るなんておかしすぎる。
 そう思っても上にも、横にも、周りに人の気配は感じないのだ。

「もうっ、一体何なのよー!」

 よくもこんな恰好に……。
 この思いをどこにぶつけていいのか分からずにずぶ濡れの彼女は叫ぶ。でも、こんな町中で叫んだことに少しばかり後悔をした。何事か、何事かと人々が駆けつけてきたからだ。

「もうやだ。帰ろ……」

 足早に来た道に歩を進め始めた。


 けれども、自分の影の他にもう一つ別の影が重なっているように見えたから立ち止まった。
 周りをきょろきょろ見回しても、やっぱり怪しいものは何もない。
 ふと、空を見上げた時だった。

「うわっ! 才蔵っ!?」

 見知った人が上から落ちてきて、上手に地面へ着地する。

「ここにいたのか、咲弥……って、ずぶ濡れじゃねぇか」
「あ、う、うん。急に雨が降ってきて……」

 なぜこうなったのか心当たりがある才蔵はため息をつき、悪いと一言だけ呟いた。

「どうして才蔵が謝るの?」
「い、いや……。それよりも、早く帰るぞ」
 
 才蔵は咲弥の手を取り、上田城へと戻った。


 家屋の影から彼らを見ている人物に気付かずに――。

「どんな展開になるのか、楽しみだぜ。って、何で才蔵が来るんだよ! 俺様の才蔵を取るんじゃねー!」

[12/02/23]
プロローグは才蔵と犯人(鎌たん)しか出てきません。次からキャラ別です。

[終]



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