赤紫色の華
銃声が二、三発鳴り響き、赤い飛沫が舞った。
髪を結っていた女はその場で崩れ倒れる。止まることを知らない紅が、彼女の体から次々に溢れ、溜まり場を作る。
犯人だと思われる男はその光景を目にして嘲笑うと、銃を担いで忽然といなくなってしまった。
私は、倒れている彼女が大切な人ではないかと思い、急いで向かった。
「咲弥っ!」
顔が何故かぼんやりと暗くてよく見えない。咲弥であっても、そうではなくとも、目の前の人物を放ってはおけない。
綺麗な体に食い込んでいる禍々しい銃弾を取り除く。すると、紅は勢いよく溢れ出す。
止血をしようと着物を引き裂いて、傷口をきつく締める。
「うぅぁっ!」
「いったい、誰にやられたのですっ?! どうして、このようなことに……」
何故、貴女がこんな目に合わなければいけないのでしょう。誰かに暗殺されそうになったのでしょう。
今にも死にそうなその瞳を直視できない。
彼女をこんな目に合わせた奴が憎くて仕方がない。
私を置いて逝かないでください。私を見て、笑ってください。どうか、どうか――。
「咲弥――っ!」
「六郎。どうしたのじゃ、六郎!」
「はぁっ、はぁ……わ、わか……」
あぁ、これは、夢でしたか。
顔に伝った冷や汗が尋常なものではなく、若が私を心配する。
「怖い夢でも見たか? 咲弥、咲弥とずっと言っておったぞ」
「すみません……」
「よい、よい。六郎でもそんなことがあるもんだな。咲弥なら、自分の部屋で寝ておるぞ」
「はい。見に行ってきます」
不安の渦にのみこまれた私は、自分の目できちんと見ないと安心できなかった。
もしや、この夢はのちの未来の出来事だったかもしれないと。
私は若に頭を下げ、足早に咲弥の部屋へと向かった。
「咲弥、いますか?」
明かりが薄らと漏れているのに、返事がない。
つけっ放しで寝てしまったのか、それとも。
消し忘れたり、うとうとしていてということなんてしょちゅうある。けれども、あんな夢を見た後です。良い方向に考えられません。
もし、あの女性が彼女だったら? あの夢がこれから起こることであったとしたら?
私は襖を壊してしまいそうな勢いで開け、咲弥を探した。
さほど広くはない部屋ですから、すぐにわかるはず。逃さないようにくまなく見渡すと、角で布団にくるまった怪しげの物があった。近寄ってみると、すーすーと寝息が聞こえてくる。
「……いた。寝ていただけ、ですね。よかった」
布団から覗く顔は、いつもの咲弥。何の変わりもない。
安心しました。
ですが、もう、野放しになんてできません。
起こさないように布団から剥がしてそっと横たわらせる。何も知らない彼女は、心地よさそうに寝ている。
「ふふっ、相変わらずですね。貴女っていう人は……」
私は、彼女の部屋に隠していた鎖等を押入れから取り出す。
足枷に手枷、そして首枷を手際よくはめる。仕上げに、足枷と部屋の柱とを繋ぐ。
これで、完成です。もう、この部屋から勝手に出られません。
あのような事になることも、きっとないでしょう。
「ずっと一緒ですよ。生きている時も、死ぬ時も……ずっと、ね」
あぁ、忘れていました。首枷の下にもう一つ、印を――赤紫色の華を咲かせましょうか。
[12/03/09]
今回は生ぬるい狂愛にしたつもりです。
[終]