まじないの花 06.才蔵・佐助編
※才蔵視点です
さっきは変な目にあった。
ったく、何意地張ってたんだか。あとあと思い出すと小っ恥ずかしいじゃねえか。
ただ、コイツは俺の隣で鼻歌をうたっててすごくご機嫌だ。買ってやった桜のかんざしが歩くたびに揺れて、それを物語っている。
甘味処がもうすぐ見えてくるから、俺を引っ張って走り出しそうな予感がする。
そう予感したのが間違いだった。察知しなきゃいけなかったんだな。
「行くよ、才蔵! 競争だー!」
「お、おいっ!」
あぁ、やっぱりな。
俺は足を絡まらせながらも、コイツの俊足並の速さについて行った。
店に着くなり、コイツは常連なのか「いつもの二つ!」と店員に向かって言うと、店員がすぐさまお盆に載せてやってきては机に置く。空になったお盆を脇に抱え、「ごゆっくり」と挨拶をすると立ち去った。
咲弥は素早く箸を取り、器をまじまじと見る。
いや、これはおしるこの甘いにおいを堪能しているようだった。「あぁ、幸せ〜」って顔に書いてらぁ。
においに満足すると今度は器を手にし、白玉を口に持ってくる。
「いただきます! う〜ん、美味しーいっ!」
器に口つけて、ずずずずーって小豆や汁を流し込む姿はいつ見ても豪快だ。
別に女だからっていう理由でいつも上品にされたらこっちは気が抜けない。たまにはこんなのもいいって思う。面白ェし、見てて笑っちまう。
目の前の咲弥はひたすらおしるこにがっつく。そんな咲弥を、俺は肘をついて凝視していた。
熱い視線にようやく気づいたのか、コイツの手が止まった。器を机に置き、俺を一瞥する。
「ほら、才蔵も食べる!」
「あ、ブッ! アハハハ、しゃや(咲弥)……っ、その顔、芸術的だぞ」
「え? 才蔵、どういうこと?」
「だってよ、そりゃねえだろって顔してるぜ? 昔の偉人の、立派なひげが出来上がってて」
「え、やだ……うそ」
立派なひげっつうのは言い過ぎか。実際には、口の端っこに少し付いてるだけなんだが、コイツの反応が楽しいから黙っておく。
もちろん、自分の顔が見えてないから、あぁどうしようって焦ってる。
んなもん、拭けばいいだろうが。恥ずかしくて出て来ねえんだろうな。
だから、俺はそこまで意地悪じゃねえから教えてやる。ってか、俺がやってやる。
咲弥と小声で呼び、手招きをする。
「俺が拭いてやるよ」
「う? うん、じゃあお願いしますって拭くもの持ってるの?」
ハッ、今の俺が持ってるわきゃねーだろ。
「こうすんだよ」
咲弥の顎を下から支えて掴んで、自分の方に引っ張る。
何が起こっているか分からないっていう表情は無視して、俺は悪戯っ子のように舌を出す。
その舌先でぺろりと口の端を舐めてやった。
「あ、わわわっ! 才蔵っ!?」
いい反応だな。作戦大成功だ。
そういや、前にもこんなことあったか?
餅つきした後に、餅を頬張って食べていたお前を呼んだら、口の周りにいっぱい黄な粉付けてたもんな。
懐かしいな。あの時と同じじゃねえか――。
余韻に浸りながらも、そのまま花唇にもしてやろうかとした。
が、聞き覚えのあるヤツが何所からともなく駆けつけてくる。
「不可ぁぁぁぁー!」
「ひっ! 佐助!?」
咲弥の膝の上になんらく飛び乗って、抱き着く。
「チッ……さしゅけ(佐助)、邪魔すんじゃねえ!」
「しゃやにくっ、くく、くちづ……けしようと、していた。我、見ていた! しゃいじょお(才蔵)、へんたい!」
「んだと、このクソじゃる(猿)!」
「もうっ、こんなところでケンカしないの!」
――その後、俺と佐助は「店で暴れた罰」として、伊佐那海&鎌之介チームとアナにいじられるのであった。
[12/03/09]
久々に佐助の登場です。またしても才蔵視点からでした。
[終]